恥じる朱 | ナノ


加護したいから愛すのだと吐かれて大変間抜けな面を晒してしまった。
それは憐れみと何が違うのか、しかしそれでも構わないとおもう自身に呆れる。
彼は何とも謂い難いわたしを察して口の端だけで緩く笑む。
何時だったか共にした寝床でご丁寧に髪まで濯いでガチガチになって正座していたときがあった。
己ながら忘れたい話だが、あの時の珍しく相好を崩して笑った貌まで消すのは惜しくて、何度も惨めったらしく思う。
甘えた仕草で濡れた髪に触れる、穏やかに燈る炎。
慕わしげに名前を呼ばれる度苛立ちに似た感情が溢れそうで恐かった。
わかっている、その声に焦がれて身勝手に期待してるだけだ。
外界から隠すように被された紅の羽織は夜だと一層深みを増して、手繰り寄せれば親の胎内にかえったような錯覚を抱く。
煩わしい思考ごと放棄したくなったのは一時で、早々に引き戻す親しい匂いに視線が滑らせた。
「不満そうだな」
飾ったように目尻を下げて首を傾ければ肩から長い黒髪が一房零れる。
敷布に広がる波紋に身が沈む感覚が蘇る。
「寧ろお前の理由を訊きたいのだが」
「わたしの……」
覗き込んでくるそれに引き寄せれて、躊躇わず手を伸ばす。意識の無いところで求めてばかりいる腕。
「時々あなたの眼は、」当然の如く拒まれない指でなぞる。「暗闇だと泣いてるようにみえるんです」
口にしてすぐ離しかけるも手首ごと掴まれて強引に引かれる。その迷いなさに一瞬身を退きかけた。
「お前には赤子も同然か、それは敵わないわけだ」
余裕を浮かべたまま何を謂うかと悪態を呑み込んで肌を弄る熱に苦悩すら必要性を奪われる。
耳まで染まった朱をからかわれてると知っているから、逃れようとするわたしに目線すら外させてくれない。
「……本当に、頭領様は慈悲深い」
辛うじて呟いた声は負けを自認したも同然で、それこそ幼子みたいに身を寄せた。
はやくこの目も塞いでしまえ、そうでもなければ多分耐えられない(そして慰みに感謝を)

恥じる朱/110623

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