欲しがり | ナノ


一見女性のように白い腕を、背中と膝裏に差し込んで抱き上げた。
ぎょっとして悲鳴も引っ込む。
人の身体はこんなに容易く持ち上がるのか。
いつになく甘えた声。
長い前髪がかかるまま、貌を近づけて額をくっつければ大人しく瞼を閉ざす。幼い子供のようだ。
それは間違ってない、彼にとっては何時までたっても変わらない。
事実ほんとうに変わらないのだと漸くおもいだせる。
抜け出せない嫌悪感。とけそうな眼差しを向けないでほしい。
子が固執するような愛玩対象ではなく、寧ろ子に向ける情に近いかもしれない。
「童子好きですしね」
「?、貴女の方がかわいいですよ」
「わけがわかりませんって」
愛、慈愛、勿論彼は無償でそんなものを提供しない。
素でイカれてるってみせかけて、わたしよりずっと現実を知っている。
上手く計算されている。
そんなものなくても生きていける癖に、時々中毒みたいに恋しがる彼は大変面倒臭い。
「あの、有難うございます」
助けてくださって、歯切れが悪いけどこの距離で聞き逃すことも無い。
山一つ越えようと聞きつけるほどの地獄耳の持ち主だ。
なんと吼えたところで圧倒的に弱い立場が覆るわけでもなかった。
「すきですよ」
「は?」
「ああ、間違えました、どういたしまして?」
「寒いんでやめて下さい」
「ふふ、冗談だと知ってるでしょう、私は貴女を甘やかすのが一番好きなんです」
音を立てて額に口付けて、溜息交じりに囁く。
「やっぱり、ややこ、欲しいですね」
その表情をみて何も謂えなくなった。
あなたが、そんな嬉しそうにしなければ抗えたけど。
仕方なく聞こえないふり。


欲しがり/110524

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -