雄弁にね | ナノ


暢気に余所見していたところを鈍い痛みに引き戻される。
「っ痛、」
「んあ?……っとごめんごめん」
漏らした声に反応して皮膚に喰い込んだ尖鋭な歯とついでに両の手も離す。
白い肌と混和する斑模様の刺青が焦燥を示すようにぶんぶん振られた。
「やー危なかったわー」
「こっちの台詞ですよ」
「誰の所為よ」
「貴女ですよ」
噛まれた箇所を警戒しつつ自身の片手で覆い庇う。
痕がついたものの甘噛みの粋を超える際どい辺りだったので出血はない。
自然彼女へ目線をずらせば歯の白さと緋の舌が肉食性をおもわせた。
彼女はといえば悪びれる様子もない。
「そんなに美味しそうなのがいけないんじゃない」
寧ろ物足りなそうにみえるからぶっちゃけ居たたまれない。
かといって恐がるわけにもいかなかった。
少なくとも今のところ私が否と明示する限りは怺えてくれている。
一つ誤ればとって食われてしまうだろうが、あくまでも強要はされない。
あくまでも誘うだけだ。
「相当手加減してくれてんのは解かります」
「これでも躾はいいのさ」
したり顔で目を細める彼女はその点誠直である。
欲心的な口唇で三日月を描き不敵に嗤う。
「だからご褒美くらい強請ってもいいだろう?」
一日置きでもいいし、五日にいっぺんでも構わない、そう付け加えて手を伸ばす。
紫紺を染み込ませた、けれどそれこそが紛れも無く彼女である指。
愉しげに私の顎を捉える感触に本当は爪も研いでるんじゃないかとおもった。
「情け無い話、痛がりなんですけど」
「敏感ってことかい?そりゃ何よりだわ」
「はいはい」
視線を投げて負け惜しみに鼻を鳴らす。
恥ずかしがってるとかじゃなくて普通にびびりなだけ。
再度牙がちらついたのでしつこく制止をかけると詫びるように生温い舌で舐められた。


雄弁にね/110305

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