act.4 サングリア



 汗をかいたグラスの中で、レモンが揺れる。真っ赤なワインと黄色い果肉のコントラストは暑さで少しばかり呆けたシュラの頭を覚醒させるのに充分な効果を発揮していた。

「本当はコアントローもワインと共に一日寝かせておくものと聞いたが…やはり本場のサングリアとは比べものにならないだろうな」

 苦笑するカミュの手にも同じカクテルグラスが握られている。
 フルーツでじっくり香り付けされた赤ワインを甘いオレンジのリキュールで割ったサングリアは、シュラの母国であるスペインで親しまれているフレーバード・ワインの一種である。
幼いうちに母国を離れたシュラにとってはそれほど馴染み深いものではなかったが、悪友に付き合わされたバーでシュラはそれを数回口にしたことがあった。

「いや、俺もスペインでこれを飲んだことはないが・・・とても美味いぞ、カミュ」

「そうか・・・よかった」

 サングリアとはスペイン語で血を意味する言葉でカミュはあまり好きではなかったが、本来食前酒として多用されるそれはその爽やかな飲みやすさからスペインでは夏にその暑さを紛らわすために頻繁に飲まれ親しまれているという。

「・・・・少しは涼しくなっただろうか?」

 赤ワイン色の瞳が少し不安げに揺れてシュラの顔を覗き込んだ。

「ああ・・・とても良い気分だ」

「もう酔ったのか?」

「まさか。だがたまにはお前と酔いつぶれるのもいいかもしれんな」

「・・・それは遠慮しておこう」

 笑い声を上げる二人の手の中で、カミュの作った溶けない氷がグラスとぶつかりカラカラと音をたてた。



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