2011 ミロ誕
月が変わってから急激に冷え込み、慌てて毛布を引っ張り出したのが一週間前。夏の間に染み込んだ埃臭さがやっと抜けてきた毛布は今日はベッドの下で無惨に丸まっている。窓の外では冷たい北風が吹いていたが、ミロは背中が汗ばむのを感じていた。
「んん」
シーツについた両腕の間でカミュが小さな唸り声をあげた。酸素が足りない。擦り合わせたカミュの額にも薄く汗が滲んでいる。
凍気を灯す指先が熱を孕んで、金髪をくしゃりとかき混ぜる。白磁の歯が優しくミロの舌を噛んだ。
じんわりとした痛みも、それがぬめる舌で絡めとられる心地よさも、ミロには予想外だった。それらを与えてやるのは、いつもミロだったからだ。
カミュに捕らわれた舌はそのままカミュの口内へ引きずり込まれ、誘うように吸い付く。
ミロの背中を汗が一筋流れて、ミロはたまらず顔を上げてカミュの口から舌を抜いた。肩を揺らすほどに息を乱したのは何年ぶりだろうか。見下ろしたカミュも口をはくはくと動かして必死に酸素を取り込んでいた。
「大丈夫か。カミュ」
「ミロ」
だがカミュは、労ろうとするミロの言葉を遮ってまたすぐにミロの首を引き寄せた。唇から顎、首筋へ舌が滑る。くすぐったさにミロは思わず身を捩ろうとするが、それすらも許さないとばかりにカミュは素足をミロの腰に絡ませた。密着した腹までが熱い。
「ああ、ミロ・・・あついな」
ほとんど独り言のようにカミュは呟いて、腹の下に赤い指先がそっと忍び込んだ。熱いのはどちらの身体なのか、もうミロにはわからない。
「は、・・・カミュ。今日はどうしたんだ。本当に」
カミュは答えるかわりにミロの身体中で一番熱い部分に触れた。まっすぐミロを見上げる赤玉が、驚くほどに甘く蕩けて、晒された喉がコクリと上下する。こんなにあからさまにカミュが欲情しているところを見るのは初めてだった。
「ああ・・・ミロ、ミロ。愛している」
「カミュ、」
「わたしの全てをお前にやると言ったら、お前はどうする。ミロ」
本当に、カミュは何を言っているのだろうか。カミュの手の中でどくんどくんと自身が脈打つのを感じながらミロはカミュの赤玉の視線に空色を絡ませてその奥を覗き込む。
「カミュ・・・。俺も、お前を愛している。この世界のなによりも。だから、お前が欲しいよ」
ふ、と赤玉が急に歪んだ。獣のようだったそれが、いたずらが成功した子供のようにきらりと輝く。
ミロのもので僅かに濡れた指先が、枕元の時計をまっすぐに指した。
「誕生日おめでとう。ミロ」
「・・・・・・・」
「ふふ。驚いたか?」
デジタル時計の画面に大きな“0”が四つ並んでいて、その隣に小さく表示されている日付はミロにとって特別な数字の羅列になっている。
「・・・カミュ」
「なんだ。素直に喜んでもいいのだぞ」
つまりこれは、カミュからの誕生日プレゼントであったらしい。嬉しいような、どうせならあのムードを最後まで保ってほしかったような、複雑な気持ちである。
そしてなにより、とんでもなく恥ずかしい科白を言ってしまったような気がする。ミロは一気に恥ずかしくなって、カミュを抱き締めたままベッドに顔面から沈み込んだ。
「カミュ・・・どうしてくれる」
もそもそと呟いた文句は枕に染み込んだ。耳元でカミュが笑う。
「どうもこうも。お前の誕生日なのだ。好きにするといい。全てやると言っただろう」
蠍座のミロは、水瓶座であるカミュよりも少しだけ年上のはずである。
しかし、カミュには一生敵わない気がする。せめてもの抵抗に、ミロは腕の中の熱い身体を力いっぱいに抱き締めた。
END