※LCのキャラとの絡みがあります
ほんのりカルディア×カミュ
05. 君からのキスと繋がっています



06. 指切りの代わりにキス




 カミュは至って普通の感性の持ち主なので、占いを信じたり夢見を気にするようなことは滅多にしない。どちらかというと現実的なほうである。

 だからつい今しがたいつものように灯りを消して眠ったはずなのに、いつの間にか視界が拓けて眼前に知人と瓜二つの人間がその知人と同じ黄金を纏いカミュを覗き込んでいることに驚愕した。

「・・・あなたは過去の蠍座?それともミロの跡を継いだ者か?」
「ミロというのか、今の蠍座は」

・・・いまいち会話が成り立たないのも知人にそっくりである。唯一違うのは、ふわふわ揺れる髪が鮮やかな青色なところだとカミュは眼前の彼を観察し、自分がもう冷静に事を受け止め始めていることに気が付いた。

 青色の彼はますます身を屈めてカミュに詰め寄った。鋭く細められた目が品定めするようにカミュをじっと見る。驚くことにその瞳はミロと同じ空色である。

「あなたは蠍座だろう?わたしは水瓶座だ。蠍座のミロなら天蠍宮に・・・」
「ああ。いいんだお前で。・・・綺麗な赤だな」

 視線を絡めた空色の中にカミュの赤色が映り込むほどに、彼の顔が近い。別人だとわかっているのにカミュの心臓は大きく鳴りはじめる。別人でも、瞳は同じなのだ。

「せ・・・せめてあなたが誰なのか、知りたいのだが・・・」
「え?ああ。お前達のすぐ前だな。二百年以上経っているが」
「・・・わたしたちの前」

 前聖戦の話は幼い頃に幾度か聞いたことがある。女神は聖域より離れた地に生まれ、残酷なことにその兄が宿敵であるハーデスであったのだ。それから、宝瓶宮にだけある巨大な書斎は、その時の水瓶座のものだったという。
 だが、カミュはそれ以上の話は知らなかった。前聖戦で生き残った者が、ほとんどいないからだ。
 ではこの蠍座は・・・彼はどんな人物であったのだろう。どんな生き方をして、何を思って散っていったのだろう。

「蠍座の・・・ミロと言ったか。そいつとは親しいのか。お前は」
「え・・・あ、ああ・・・まあ・・・」
「ははっ。答え難い質問だったか?」

 青い蠍は意地悪く笑い、吐息がカミュの鼻にかかる。熱い。金の蠍も、カミュを抱き締めるときこんな熱い息を吐く。だがそれよりも熱い。カミュは思わず、触れそうなほど近くにあったその頬を両手で包んだ。その瞬間だった。

「・・・え?」

 氷点下の凍気を纏う手のひらと、燃えるように熱い心臓が重なる。先へ進めと笑う無二の友と、立ちはだかる懐かしい友。哀しい海の神。託した夢。カミュにはこれが間違いなく自分の記憶だとはっきりわかる。

「・・・クソ真面目な奴だったよ。戦士のくせに本ばっか読んで。教皇の命だかなんだか知らんがいつも俺につきまとって口うるさく説教して」
「それは・・・」
「優しかったんだな。ずっと傍にいたんだ、それくらいわかる。だから俺は最期までアイツを信じた」

 カミュの手を包むように熱い手が重なる。カミュはこの温度を知っていた。炎を宿したように揺らめく空色の強い眼光が突き刺さる。

「俺は後悔するような生き方はしていないつもりだ。望んでいた通り、俺はこの命を全力で使いきった。だがひとつだけ、アイツに言えなかったことがある」

 触れた唇もやっぱりとても熱かった。互いに唇は閉じているのに、その熱はゆっくりとカミュの中に染み込んで、心臓に流れ込む。

「お前は・・・お前たちは、違うだろ」
「・・・そう思うなら、何故わたしにキスを?」
「そうだな・・・嫉妬かな」
「ご冗談を」
「お前らばかりずるいぞ」

 青い蠍のわざとらしく怒ったように頬を膨らませる顔は本当に金の蠍とそっくりで、カミュのため息にも笑みが混じる。仕草も顔も瞳の中の空も、カミュの頭を撫でる手の熱さも。

「そうやって笑うと、本当にデジェルと瓜二つだな」

 髪を梳くように撫でる手がそっと額へ降りて瞼を擽り、カミュは静かに瞳を閉じた。
 一瞬だけ見たおぼろげな記憶の中で、ひとつだけ鮮烈に感じたものがある。

「きっと彼も・・・」
「その先を言うのは俺じゃないだろう」
「しかし」

 また熱い唇がカミュに触れて、蠍が笑う気配がする。燃えるようなこの熱を冷ますことができるのは、きっと。

「これはお前からそのミロとやらへやるがいい。必ずだぞ」

 そっとカミュは両手を伸ばした。もう、熱い吐息に届かない。

「約束だ。ミロを離すなよ」



 目を開けて最初に見たのは、見慣れたグリーンのカーテンとその向こうの薄紫の空だった。朝が来る。カーテンを揺らす風の冷たさが心地好い。起き上がって鏡をちらりと見ると、寝癖でぼさぼさの頭が写っていてカミュは一人で吹き出した。磨羯宮を駆け上がってくる暑苦しい小宇宙がひとつ。
 カミュはベッドの下に昨夜脱ぎ捨てたサンダルをつっかけて寝室を飛び出した。

「ミロ!キスしよう!お前のその熱が冷めないうちに」
「ちょ、カミュ、なんで・・・」

 このキスは、水瓶座のデジェルから蠍座のカルディアへ。そして、カルディアからデジェルへ。

「約束通り、伝えたぞ」



END




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