2011 デスマスク誕





 大量に摂取した酒と濃厚なキスは、シュラの体温を一気に上昇させた。

「あつい・・・」

 吐息と共に吐き出された声は小さく、シュラに背を向けて流し台に立つデスマスクには届かなかった。
 デスマスクは上機嫌に鼻歌を歌い、それに合わせて手元の食器も軽快に磨きあげられていく。その食器についさっきまで乗っていたケーキの味はもう思い出せないが、デスマスクの舌にはまだ甘く痺れるような感触が残っている。それはシュラの身体と同じように火照りデスマスクの上機嫌に拍車をかける。
 甘いケーキと酒とシュラ。ついでにテーブルには同僚たちから貰ったプレゼントの箱たち。誕生日というだけでとんだ贅沢だ。物心ついた頃からやれ修行だ鍛錬だ、黄金聖衣だ聖戦だと怒涛の人生だったが、その聖戦が終わってみればこれだ。人生捨てたもんじゃない。
 鼻歌が終わると同時に全ての食器が片付き、デスマスクはにやける顔を隠しもしないままシュラを振り返った。

「お待たせ、シュラ。もういっかい・・・え、近!」

 指先から雫が垂れてフローリングに落ちる。その先にはソファに投げ出されていたはずの素足。白いその足を辿っていくと、細めのパンツに黒いシャツ、火照った黒山羊の切れ長の瞳。とろりと蕩けたそれからは普段のストイックな雰囲気を微塵も感じない。だがそれよりもデスマスクの視線は、大きくはだけたシャツの中の白い腹に釘付けになった。

「遅いぞ、デスマスク」
「ああ、待ちきれなかったんだな黒山羊ちゃん。でもなんで脱ごうとしてんの。ベッドまで待ちな」

 散々食って飲んだものは一体どこにしまったのか、ほんのり赤く火照る腹はぺたんこだ。デスマスクはゴクリと唾を飲んだ。手を伸ばしてそこに触れたいが、待てと言ってしまった手前、自分から手を出すのはしのびない。デスマスクは腕を組むことでその衝動を抑え込むことにした。

 だが、デスマスクのそんな密かな努力も虚しく組んだばかりの腕はシュラに掴み上げられてしまった。

「シュラ?」
「デスマスク・・・」

 あつい、と呟いてシュラの身体がデスマスクに密着する。手のひらも擦り寄せられた頬も、シュラの全てが熱い。

「デス。ベッドまで待てない」

 デスマスクは衝動を抑えるのをやめた。晒された首元を撫でて顔を上げさせる。熱を孕んだ視線を絡めたまま合わせた唇も熱かった。

「誕生日おめでとう」
「おう」

 今夜は熱帯夜になりそうだ。



END





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