act.5 浴場で欲情



 シャワーが床を叩く音が広い浴室に響く。
カミュは居心地悪そうに、湯船の中で膝を抱えて背を丸めた。髪を高く結っているせいで、華奢な背中がよく見える。その背中に一房の後れ毛が垂れて毛先が水面に広がるのを横目でちらりと見て、シュラはシャワーの雨の中でこっそり微笑んだ。わざとキュ、と音をたててコックを捻るとその音に反応したのかカミュの背中がぴくりと揺れた。

「カミュ。入るぞ」

 黄金聖闘士たちが守護する宮には、それぞれ内装は多少違えど豪奢な風呂が備え付けてある。宝瓶宮も例外ではなく、広い浴槽は二人で入っても広すぎるくらいだ。

「・・・・シュラ。近くないか」

 薄赤く染まった頬を僅かに引き攣らせて、カミュは丸めた背筋を伸ばした。浴槽はこんなに広いのに、湯に身体を沈めたシュラはカミュにピタリと寄り添ったからだ。
腰に回った手が不穏な動きをし始めたので、カミュはその手の薄皮を思いきり抓った。

「痛いぞカミュ」

「酔っているな、シュラ」

 昼間、カミュはシュラのために、彼の母国のカクテルを振る舞った。柑橘類の爽やかな味と目が覚めるような血の色を思い出してシュラは目を細める。

「・・・・昼の酒はお前みたいだった」

「え?」

 腰を撫でていた手がゆっくりと這い上がり後頭部に辿り着く。結われたカミュの赤髪の根元に指を挿し込んで少し引くと、たっぷりと艶を含んだそれは簡単に解けて華奢な背中に広がった。鼻を近付けてみると、ほんのりシャンプーの香りがする。

「赤くて、良い香りがして」

「っ・・・。」

「すっきりとした酸味の中に、たまらない甘みが隠れている」

「は、シュラ・・・!」

 赤髪の隙間に覗くしっとり濡れた項に唇を押し当てたままシュラが喋ると、カミュは肩を震わせて熱い息を吐いた。

(熱いのは、酒のせいか、それとも・・・・)







「う、あ・・・・んんっ・・・!」

 尻にあたる床の冷たさと、自身を這うシュラの舌の熱さにカミュは身悶える。
 浴槽の縁に座らされ、湯で充分に温まった身体は少しずつ冷えていく。だがカミュにはそれを気にする余裕も理性ももはや残されていない。足が水面を叩くと、湯に浸かったままカミュの下半身に顔を埋めるシュラの周りで小さな波が立った。

「あ、あ・・・シュラ、もう・・・・」

 限界だ、と訴えるようにしなやかな指がシュラの短い髪を掴んだ。シュラは構わずカミュへの愛撫を続ける。下から上へ裏筋を辿り、行き着いた先端を緩く噛んで伸ばした舌で小さな穴をつつくと、カミュは大きく仰け反ってシュラの口内に精を吐き出した。シュラの喉がゴクリと鳴る。

「・・・・ん」

「うあ、や・・・・・」

 精液を躊躇いもなく飲み下され、カミュは羞恥で急激に体温が上がるのを感じた。隠れるように顔を覆った指の隙間から真っ赤な額と頬がちらちらと覗く。シュラはまた気付かれないように小さく笑って、目線を合わせるように浴槽の中で立ち上がった。
 手首を掴んで顔から引き剥がし、現れた唇に自分の唇を合わせ欲望の残骸が残る舌を僅かな隙間から押し入れると、カミュは眉根を寄せて嫌がる素振りを見せる。

「っん。う、ふ・・・・苦、い」

「はは。お前の味だぞ」

 カミュの眉間によった皺を指先で撫でて、シュラは何度もキスを送る。苦い、と逃げる舌を追いかけ上顎を擽り上唇を緩く食んで。押し返すように肩を掴んでいたカミュの手から力が抜け、シュラの胸へ滑り降りた。
 観念したか。とシュラが口角を持ち上げた次の瞬間

 ばしゃん



 目をこじ開けたシュラの前にカミュの顔は無く、代わりにゆらゆら揺れてキラキラ光るなにか・・・水面があった。

 溺れている、と自覚すると同時に床に触れた踵をぐ、と踏み込んで立ち上がろうとするが、腹の上になにか重いものが密着していて思うように身体が動かない。
だが、幸いなことにシュラは普段から反射神経やら体力諸々は鍛えすぎと言うほど鍛えている。少し腹と腕に力を入れると案外あっさりと水面に顔を出すことに成功した。

「うっ・・・ゲホッ、はぁっ・・・!」

「シュラ」

 腹に貼りついていたのはカミュだった。

「カミュ・・・」

 なにをするんだと、シュラは文句を言うつもりで口を開いた。
 だが、柔らかな肢体を絡ませるようにシュラに委ねて、無言で見つめてくる真紅の瞳の中に欲情の色を見つけて、文句の代わりにその瞼にキスをした。

 二人の夜はまだ始まったばかりだ。



(next...)




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