宝飾店の女主人はやけに威勢が良く、勢いに圧倒されてたじろぎ気味の二人の前に分厚いカタログや手書きのデザイン画を山のように並べた。

「お兄さん綺麗だからね。なんでも似合いそうね。やっぱり指輪かしら?でも指輪はベタよねえ・・・」

「はあ・・・」

 カミュはちょうど目の前に置かれたデザイン画を見ようと俯いて、肩から流れてきた髪を無意識に指で掬って耳に掛けた。宝飾品などよくわからんと眉をしかめたシュラにはカミュのその動作のほうが宝飾品よりもよほど綺麗だと思う。
 そして、そう思ったのはどうやらシュラだけではなかったらしい。

「あら、アンタ綺麗な髪してんじゃない!うん、髪留めね!」

 突然大声をあげた女主人はなにやらぶつぶつ言いながら、シュラとカミュが何事かとぽかんとしている間にカウンターの隅に避けてあったアメジストの箱を引き寄せて、テキパキとそれに細工を施した。



「やはり加工してもらってよかった」

「ああ。良い色だ」

 ひとつに纏めたカミュの赤い髪の上で、カミュが歩くのに合わせてできたての髪留めが揺れる。
 シュラがアメジストの原石をカミュに贈ってから、もう十数年が経った。
 聖域へ続く石畳の道をゆっくり歩くカミュの嬉しそうな横顔をちらりと見て、シュラはその空いている左手を握ろうと右手を伸ばす。
 それが触れるより先に、前だけを見ていたカミュの左手がふわりと持ち上がって伸びてきたシュラの右手を捕らえた。

「カミュ、」

「急にあなたと手を繋ぎたくなった。少しだけ・・・いいだろうか?」

 あれから長い時間が経った。ほんのり頬を染めて伺うように顔を覗き込まれ、シュラの心臓はトクンとひとつ大きな音をたてた。
 その音の理由も、そこに広がる優しく温かい感情の正体も、もうシュラはわかっていた。

「俺も、繋ぎたいと思っていた」

「ふふ。同じだな」

 少し照れたようにカミュは笑う。キラキラ。宝石が光る。高まる鼓動も同じになるようにと思いながら、シュラは握った手に少しだけ力を込めた。



END





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