2011 カミュ誕
捏造幼少期
カミュが修行から帰ってきたのは、偶然なのかそうでないのか、彼の誕生日だった。
金属と石段が触れ合う高い音を響かせて、懐かしい小宇宙が近付いてくる気配をシュラは瞳を閉じて静かに感じる。
氷のようにキンと冷たいその小宇宙は数年前の聖域を発ったあの日よりも強く研ぎ澄まされ、懐かしさと共に流れた時間の長さを思わせる。それは小さく優しかったカミュが戦士になった証であり嬉しくもあるが、シュラは少しだけ淋しいような苦しいような不思議な気持ちになった。これからカミュは、戦うために生きていかなくてはならない。カツン、カツン。気配は磨羯宮の入口まで来ている。シュラは手の上の小さな袋を握りしめた。
「久しいな。カミュ」
「シュラ。ただいま」
黄金色の水瓶座を纏ったカミュは、想像していたよりも小さいままだった。だがそれはシュラも同じように成長したからで、その証拠にシュラが見下ろす視線の高さは昔とほとんど変わらなかった。だが、強くなった小宇宙と聖衣の隙間に見える筋のしっかり通った腕はシュラの見たことのないものだった。伸びた筈なのに変わらない身長差にカミュは残念そうに笑って、その笑顔もシュラの記憶にあったものより随分大人びていた。
「・・・シュラ?」
何を話せばいいのかわからなくなってシュラは黙り込む。話したいことは山ほどあったはずなのに。背中に隠した小袋を握る手に力が入って紙がひしゃげる小さな音がした。
「ああ・・・なんでもない」
手の中の小袋は何度も強く握られてくしゃくしゃになり、シュラの体温で少しだけ温まっていた。
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