人馬宮で汗まみれのアイオロスに軽く挨拶して(アイオリアと一日中鍛錬していたらしい)、シュラの磨羯宮を通り抜け宝瓶宮にいるカミュに声をかけようとしたが、カミュは留守だった。
「ミロ。俺は今朝からずっと気になっていたんだが・・・今日は宮を空ける奴が多くないか」
「・・・シュラさあ、俺昔から思ってたんだけど、男のくせに細かいこと気にするよな」
「お前が気にしなさすぎるんだ」
アフロディーテがいるはずの双魚宮までが静まり返っていて、シュラはいよいよわけがわからなくなる。
だがミロは迷わず、庭園に続く扉を押し開いた。
「おせーぞ、ミロ」
「料理が冷めてしまうじゃないか」
見慣れた筈の庭園を目の前にして、シュラは遂に固まった。
すっかり日は落ちたのに庭園はたくさんのライトで明るく照らされ、小さなテーブルには溢れんばかりに料理が並べられている。
髪に薔薇を差したアフロディーテが踊るようにシュラの前に出て、差し出した花束の中から薔薇を一本抜き取り自らと同じようにシュラの髪に薔薇を差した。
「うん、似合わないな。誕生日おめでとう。」
「・・・・・は?」
たっぷり五秒呼吸を置いて、シュラは間抜けな声を出した。横で一連のやりとりをみていたデスマスクとミロは爆笑し、カミュも口元を押さえて笑いを堪えているようだった。
「なんだきみ、やっぱり自分の誕生日を忘れていたんだな」
「え?・・・・ああ」
爆笑するデスマスクとミロの頭にゲンコツを落としながらアフロディーテはふわりと笑った。
シュラの表情は大して変わらないように見えるが、幼い頃から一番近くで育ってきたアフロディーテにはシュラは驚きながらも照れているのがよくわかる。それは殴られた頭を押さえて笑う友人たちも同じで、今日のパーティーを計画して良かったと心から思わせた。
「他の皆もすぐ来るそうだ。今日は皆あなたのプレゼントを用意するのに忙しかったようだぞ?」
シュラをテーブルへ案内しながらカミュは笑った。
それで今日は宮を空ける連中が妙に多かったのかとシュラが納得するあいだに庭園の扉が開き、カラフルな箱を抱えた仲間たちがパーティーに加わる。
あっという間にシュラの両手はプレゼントでいっぱいになり、それでは料理に手がつけられないとムウがそれを全て磨羯宮へテレポートさせた。
「いや、テレポートはないだろ」
「うるさいですよ、デスマスク」
デスマスクとムウの言い争いが始まった。それを尻目にカミュとミロに促されるままシュラはテーブルにつき、豪奢な料理に思わず感嘆の声を漏らした。
「わたしとデスマスクとで作ったんだ。口に合えばいいが」
「これは・・・フラメンコ・エッグか?」
「ああ。デスマスクが作ったやつだな」
「おう!それは自信作だぜ」
デスマスクがイカフライと同時進行で作ったスペイン料理は、片手間に作ったにしてはかなり良い出来だとデスマスクは自負する。
「お?シュラ泣きそうじゃね?」
「っな・・・!そ、そんなわけあるか!」
「シュラ・・・まさか君が私達の好意に嬉し泣きする日が来るなんて!なあ、デス?」
「う、うるさいぞお前ら!」
悪友二人のからかう声に、シュラもとうとう声を上げて笑い出した。
女神を守り戦うためだけに生き、一度は聖戦で命を落とした自分たちが、こうして誕生日を祝って笑う日が来るとは、誰が予想していただろうか。
パーティーは朝まで続き、調子に乗って飲みまくった酒のせいでシュラはしばらく頭痛と戦うことになったが、それでも幸せだと心から思った。
END