「・・・しょうがないな」

 ミロはゆっくりと動きを止め、それでも指を離さないカミュの頬を撫でて顔を上げさせた。

「ほら、カミュ」

 カミュの目の前で、ミロの指先が流星のように伸び真紅の一等星が輝いた。

「あ・・・・」

 カミュはゆっくりと銜えていた指を離し、吸い込まれるようにミロの一等星の灯る手を両手で掴んだ。

「お前のだよ、カミュ」

「ああ・・・私のだ」


 ミロの一等星は、人に苦痛を与えるために生まれた。しかし、聖戦が終わり平和になった今、それが苦しみを生み出すことはほとんどなくなった。

 代わりに、カミュがそれを愛するようになった。
 否、カミュは昔から好きだったのだ。ミロも、ミロの一等星も。ミロが「綺麗だ」と言ってくれた、この瞳の赤と同じだから。


「・・・・っあ!!」

 カミュが落ち着いたのを見計らってミロが動きを再開する。
 カミュはまた声を抑えようとしたが、すぐさまミロのキスで口を塞がれ、血の滲む右手はしっかりとミロに握られた。

 ミロの舌がねっとりと咥内を這い、カミュの舌を甘噛みする。
 同時に後孔を攻め立てられ、強すぎる刺激にカミュはぼろりと涙を流した。すかさずミロがそれを舐めとるが、それさえも刺激となりカミュは耐えられないとばかりに精を吐き出し、少し遅れてミロもカミュの中に吐精したのを感じると、ゆるやかにカミュは意識を手放した。







 カミュが目を覚ますと、カーテンが開いたままの窓の外はうっすらと明るく、カミュを力強く抱き締めるミロは大きないびきをかいていた。
 熱い体温に抱かれシーツもすっぽりと被せられ、少しだけ暑い。腕から逃げるように身じろぐと、深く眠っていると思ったミロが鼻から抜けるような声を出し、カミュを抱く腕の力を強めた。

「痛いぞ、ミロ・・・・そして暑い」

 普通ならここで「起こしてしまわないように」と思うところだが、生憎カミュとミロはもうそんな遠慮をする間柄ではない。
 カミュは構わずミロの頬を数回叩いて、文字通りミロを叩き起こすことにした。

「う・・・・なに、カミュ・・・?」

「暑いのだ、ミロ」

「?・・・・・あー。」

 腕をぴしゃりと叩かれ、ミロは渋々抱く力を弱めた。

 ―せっかくあっためてやってたのに。ミロは少し不機嫌になるが、そういえばカミュはシベリアにいた期間が長かったので、寒さには強いはずだった。そう思うと不機嫌よりも悪戯心のほうが増してきて、すっかり目の覚めたミロは髪をかき上げて必死に後ろに流しているカミュの手首を掴んで自分を見るように促した。

「なんだ、ミロ」

「カミュさあ、なんで一人でやってたの?」

「っ!・・・そ、れは・・・・・」

 仕返しとばかりにミロはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてカミュを覗き込む。
 カミュは一気に顔が熱くなるのを感じ、ミロの手を振り解こうともがいた。

「・・・お、覚えていない!」

「嘘つけ」

「嘘ではない!」

 実のところ、カミュは一眠りして冷静になったことによって、事の起こりを思い出していた。

 ミロに掴まれた指先をちらりと見やる。
艶やかな赤いそれは、昨夜新しく染め直したばかりだった。

(・・・・言えるわけがない)

 ―マニキュアを塗っていて、光る一等星を思い出したなんて。



 カミュが望めばいつでも掴むことができるその一等星は、今は意地悪く笑うミロの手の中に隠れてしまっている。
 それがたまらなく愛しく思え、カミュは小さく笑って絡まる指先にキスを落とした。



END





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