※性描写です。





 月の光が宝瓶宮を照らす。
それはカーテンを開けたままの窓から寝室にも侵入し、熱い息を吐くカミュをもその光で青白く照らした。

「んっ・・・・う、はぁっ・・・」

 一人で寝るには少し広いベッドの上に縮こまり、カミュは自身に絡めた指を懸命に動かす。
 はじめは控えめだった動きも時が経つにつれて大きなものになっていく。強めの力で竿を掴んで、かと思えば擽るように鈴口をやわやわと撫でて。この場にいない、愛しい者の幻影を追いかけるように。

「・・・っあ、ふ・・・・」

 きっかけは、なんだったか。
快楽に蕩ける頭ではこの行為に至ったまでの記憶をなかなか探し出せない。脳裏を過ぎるのは鮮烈な赤。

「く・・・・・・あ、あっ・・・!」

 追い詰められた自身から白濁色の欲が勢いよく飛び出して、カミュの腹と手を汚した。
赤く染まった爪に、白が絡んで流れる。
視界に入った眩しい程のそのコントラストは、慕ってやまない相手の指をカミュに思い出させた。
蠍の彼の、人差し指に灯る真紅の一等星。

「・・・・・っ、」

 指の付け根に落ちた欲の跡を舐めると、なんともいえない苦味が舌先を痺れさせ、それによって現実に引き戻された理性は愛しい彼の体温を欲する。

「ミロ・・・・・っ」

 たまらなくなって、今は三つ下の宮で穏やかに眠っているであろう、彼の名前を呼んだ。

 誰もいない宝瓶宮にその声は虚しく消える、はずだった。

「なんだ、カミュ?」

「・・・・・・ミロ!?」

 空気に消えて溶けるはずだった声に思いがけない返事。
思わずカミュは、自分の痴態も忘れてベッドから飛び起きた

「っ、何故・・・・」

 真紅の一等星は、薄暗い部屋のドアに凭れて楽しそうに口の端を吊り上げた。

「なんか熱烈に呼ばれてる気がしてね」

 お前の小宇宙に。と笑って、ミロはゆっくりとした足取りでカミュのいるベッドへ歩み寄った。

「・・・こんな素敵な歓迎は予想外だったけど」

「・・・・あっ・・・!」

 つつ、と剥き出しの太股を長い指でなぞられ、カミュはやっと自分の痴態に気付いた。慌てて足を閉じようとするが、それよりも早くベッドに乗り上げたミロの膝が阻むようにカミュの両足の間に割って入った。

「淋しいならもっと早く呼べばいいのに」

「あっ、・・・や、さわ・・・るな・・・・っ!」

 カミュの必死の抵抗もさらりと受け流して、精液でべたつく左手を掴んで二人の目の前に持ち上げれば、それは窓からの光を受けてぬらぬらと卑猥に光る。

「やらしー。自分で自分の、舐めたんだ?」

「やっ、ちが・・・・」

「違わないだろ?」

 掴んだ手首を引き寄せて、バランスを崩して傾いだ細い身体をしっかりと抱き寄せて、そのままミロもろともベッドに倒れ込んだ。
 ミロの上に乗る形になったカミュはそれでも抵抗しようと、がっちりホールドするミロの腕の中で身体を捩る。

「こら、じっとしてろって」

 楽しげな声がカミュの下から聞こえて、豊かな金髪が目の前で揺れる
頬を優しく撫でられ、思わずカミュは動くのをやめてミロに導かれるようにして顔を上げた。

「んっ・・・!あ、ふ・・・・んんっ」

 途端にミロの柔らかい唇がカミュのそれに重なり、驚きで開いた口の中に生温い舌が侵入する。
 食らいつくような口付けに、抵抗もできずにカミュはされるがまま、口内を蹂躙する舌に酔う。

 どのくらいの時間そうしていたのか、カミュにもミロにもわからない。最後に名残惜しげに唇を舐めて離れていくミロを見下ろすカミュの唇から、飲み込めなかった唾液が零れてミロの頬を流れた。

「んー。ちょっと苦いかな」

 ミロの瞳が悪戯っぽく細められ、ちろ、と覗いた舌が頬を伝う唾液を舐めとる。
 蠢く真っ赤な粘膜に、焦がれた情欲の色を見て、カミュは空気に晒された性器がドクリと脈打つのを感じた。

「っ・・・・・ミロ!・・・ぅ、あっ」

「だめ、カミュ」

 はしたない欲情を隠そうと両脚を閉じたいのに、間に差し込まれたミロの脚がそれを許さない
それどころか、その膝でゆるりとカミュの性器を刺激した。

「ひっ!あ、うぁ・・・・やっ・・・!」

「濡れてるな。カミュ」

「いっ・・・!や、やめ・・・・っ!」

 性器を下から押し上げる膝を止めたいのに、じわりじわりと襲ってくる刺激は、カミュの身体から抵抗する力を奪っていく。
 ミロに体重を預けくずおれたカミュの中心で、散々ひとりで弄った性器だけが堅く張りつめ存在を主張していた。

「あ、あっ・・・・・ミロっ・・・」

 ―恥ずかしくてたまらない。ミロの厚い胸に額を押し付けてカミュは思うのに、緩やかに侵食していく快感がもどかしい。
 無意識のうちに腰は揺れ、赤い爪がミロの胸を掻いて皮膚はうっすらと赤く色付く。視界の端にそれをとらえて無意識に跳ねる身体。



『カミュの目はきれいだね』

 幼いうちに母国を離れ、言葉もわからない異国に来た日。
 母国で血の色だと蔑まれ疎まれてきたカミュの瞳を、ミロは綺麗だと言った。
そのときカミュはミロの話す言葉が理解できなかったが、あとでサガが教えてくれた。

 大嫌いだったこの色を、カミュは少しだけ好きになれそうな気がした。


(覚えているのだろうか。彼は)



「っあ、う・・・!」

 流れた落ちた先走りでしとどに濡れたカミュの後孔をミロが一気に貫き、カミュは呻くような声を上げて立てた爪を食い込ませた。
 ミロは一瞬痛みに動きを止めたが、すぐに抉るようにカミュの中を突いた。

「ひっ・・・!うぁ・・あ。ん、ん!」

 今日は既にとてつもなく恥ずかしいところを見られてしまっている。これ以上痴態を晒すわけにはいかないと、カミュは声を押し殺すために自らの人差し指に噛みついた。

「んぅ・・・ふ、んっ」

「あ、こらカミュ。離せ。傷になるだろ」

「っ、ん、んん!」

 俺のを噛め、とミロは自身の指を差し出すが、傷になると言われれば尚更ミロの指を噛むわけにはいかない。聖闘士にとってそんな小さな傷など大した痛みにもならないが、自分の所為でミロに傷がつくのがカミュは嫌だった。
 噛め、嫌だとくだらない攻防のあいだにもミロはカミュを突く動きを止めない。カミュはますます噛む力を強くし、唇の隙間から血の混じった唾液が零れ落ちた。



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