(スモークスクリーン×ウルトラマグナス)
「スモークスクリーン」
低い声が落ちてくる。スリープモードに移行して間もなくまだ重い瞼を持ち上げて機体を確認すると、関係を新たなものにしたところで染み付いた癖は抜けないもので、スモークスクリーンは状況を把握するために素早く立ち上がり背筋を伸ばした。その後で、ウルトラマグナスが「固くなるな」と零しふいと目線を逸らしてから力を抜き、寝る予定であったスラブに腰掛ける。
「寝るところだったか」
「まあ、でも何かあるんだろ?あなたがわざわざ来るようなことなら寝てられないし、いいよ」
「そうか。大した用ではないが…その、」
よほど言いにくいことなのか言いかけてはやめて口元をいつもの厳粛な一文字に引き結ぶ。これまでにも何度か見たことはある。立場柄こういった距離での付き合いはまだ不慣れなようで、スモークスクリーンからのアクションを受け入れる際にもその度に驚いてみせるほどに、ウルトラマグナスは付き合い下手というよりも初なのだ。
「その、だな…」
「うん?」
「……いや、やめておこう」
「ちょっ…!待ってよ!焦らしといてそりゃないだろ?!」
「いい、邪魔をしたな」と残し去ろうとする腕を掴んで引き留める。大きな青い機体をどこか窮屈そうにして、そわそわとこちらを見た瞳に確信したものがある以上、今更気にするなと言われても無理がある。大した用でないわけがないのだ、ウルトラマグナスの行動の一つ一つには必ず意味がある。ほんの気まぐれで顔が見たかったとでも言うのならば、それは成長として喜ばしいことではあるのだが、まずそうとは考えられない。情けないことにスモークスクリーンがそこまで自惚れられるほどの関係は、今後もあまり期待できそうにないのだ。
「あのさ、もしかしなくても恥ずかしいこと?」
「………週末の、週末の予定を聞きに来た」
「はあ?そんだけ?」
「ああ」
スモークスクリーンは腕を掴んだまま呆然と、ウルトラマナグナスの赤面というものを目にした。そうして意図を理解すると同じように顔に熱が集まり、空いた方の手で顔を覆う。気難しく扱いにくかった彼がどうしてここまで愛おしいと感じるのか不思議でならない。かわいいと思ってしまうのだ。お互いに小さな一挙一動で心を動かされていると実感し、この瞬間ばかりは対等でいられる。掴んだ手を滑らせてぎこちない手の平を取り、指の隙間を埋めるように繋ぐと明らかな動揺と共に安堵が伝わってきた。
「あなたに言われたら、そんなの、忙しくっても時間作るよ…ぜんっぜん暇してる。だから俺の時間を好きなだけもらって」
「…用はそれだけだ。手を離しなさい」
「もう行っちゃうの?」
「お前は寝るところだったのだろう。私も戻って…おい、なんだ」
言ってしまってすっきりしたのかウルトラマグナスの声はいつも通りに戻っていた。たった一言、色気ない誘い文句ひとつ言うのに緊張していたくせに切り替えの早いことだとつまらなく思いながら、もう一つ、恥ずかしいついでにとスモークスクリーンは背伸びをして顔を突き出してみる。わからないはずはない。機体差から互いに譲らなければ出来ない戯れが下りてくるのをただ待った。
目を閉じて、やがてそれは下りてくる。触れるだけの幼いキスだ。あっけなく終わってしまうただの接触が大きな意味を持つ瞬間に胸が大きく高鳴った。言葉にしなくても伝わる、あたたかなもので満たされる瞬間が好きだ。
「おやすみなさい、ウルトラマグナス」
「おやすみ、スモークスクリーン。ゆっくり体を休めて明日に備えるといい」
「はは。あなたもゆっくり休んで…週末、楽しみにしてます」
至近距離で酷く優しく微笑まれ、ウルトラマグナスの溶けるような同意の言葉を奪って今度こそ手を離した。
131205
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