(トータルケイオス×キングアナコンダ)R18/擬人化



悪い噂がある、と耳にした。だから気をつけろと言われても大して打つ手はないので、真壁さんには悪いが無視をした。クリーンなイメージの押し売りなんて柄じゃない、泥にまみれようが何度膝をつこうが金さえ入ればよかった。聞こえは悪くともそういうことだ。オーナーの抱えた借金のため、金策に走る健気さをむしろ評価してほしい。それを誰に言うわけでもないが、やはり良い気はしないので溜め息を吐く。実際、似たようなこともしてるのだと思う。

家に帰れば男がいる。倹約家にしてもセコすぎる切り詰め方に、条件付きで半同居を申し出たスキモノの男だ。悪い噂とやらを知っているのか定かではない。目の据わった無表情から得られるものは少なく、記憶している限りではそんな素振りも見せていない。第一興味があるのかも謎だ。あったとして、俺は困りもしない。
同居人、トータルケイオスには金があった。少なくとも俺よりはと言う意味で、富豪というだけの貯えはない。奴の血族は父を筆頭にこぞって優秀なので金の回りはいいように思う。かつて俺の親父はそれを越え、叔父は肩を並べたものだが、全てはそれぞれに与えられた環境により左右される。俺は不幸と呼ばれたくないが、不運だとは思ったことはある。
それはさておき、この室温の高さは何か。帰宅してみれば、家主不在の部屋でエアコンがひとりでに稼働していた。節約知らずのただの消し忘れにしても暑すぎる。たまらず電源を落としてコートを脱いで、換気をして間もなく、俺は冷蔵庫の中身と相談をした。1食分、無駄なく使いきれれば文句は言うまい。

日付が変わる直前に、物音がして目が覚めた。食後、することもなく目を閉じているうちに眠ってしまったらしい。ソファーに座ったままの姿勢で凝り固まった体を伸ばすと、かかっていたブランケットがずり落ちる。廊下から人の気配がして振り向くと、帰宅したケイオスが濡れたまま顔を出した。
「窓開けっ放しだったぞ」
「換気してたんだ。……これ、助かった」
「ああ」
ブランケットを軽く持ち上げて声をかけると、素っ気なく答えたケイオスはキッチンで缶ビールを開ける。それから真っ直ぐに隣を陣取り、意味もなくテレビをつけた。耳障りなほど明るいアイドル、しめやかなナレーション、一発屋の芸人のネタ、戦争を取り扱うアニメ、洋楽のPVが代わる代わる映った。目が疲れそうなザッピングに呆れて視線を下げたが、ぬうと伸びてきた手に顎を掴まれる。
「………っ、ふ」
予測出来たキスに付き合う心理を問われると複雑だ。湿った唇の狭間からするりと伸びる舌に応じて絡ませ、ケイオスが手を太ももに置けば、俺は濡れたままの項に指を差し入れる。何かしらの特別な言葉は交わさない。そのくせ、キスだけはいつも感情的で遠慮がない。社会で円滑に生きるための挨拶のほとんども省略する関係に、必要不可欠なセックスは不意に始まる。
「っは、ん……風呂、まだだぞ」
「俺は入った」
「見りゃわかる。俺が、だ」
「どうせ後で入るだろ」
食にさえ大した拘りを見せないケイオスの涼しげな上っ面を裏切る、熱烈に急いた求め方で唇が移動する。啄まれた箇所は熱くなり、器用に片手で服を乱され、肌を直接愛撫される。回を重ねる度に体は敏感になっていった。胸を舐められながら骨ばった手に股を擦られて、緩く持ち上がった性器が下着の中で動く。
「下、脱ぐから…お前も脱げ」
「脱がせてくれてもいいんだぞ」
「ケツは自分で解してやる、突っ込みたきゃ早くしろ」
ケイオスは口の端をクッと吊りあげて、スウェットを脱ぎ始める。冬でなければいつでも惜しげなく晒される風呂上がりのそれに、じんと腰が痺れる思いをした。俺は下着を脱ぐ片手間に、手探りでソファー下の収納からゴムとローションを拾いあげた。やはり先に風呂に駆けこむべきだったろうか。自分のとはいえ、洗ってもいない排泄器官を生で触るのは若干の抵抗がある。
「早くしろ」
「うるせェ……自分のシゴいてな」
言った通りに裸で待つケイオスは不思議な愛嬌があった。またも素直に隣へ座り、既に勃起したものを撫でさする手にはゾクゾクくるものがある。それをずっと見ているわけにもいかず、俺は入れ易いように背もたれから体を下へ滑らせ、指にゴムを被せてから中に入れる。何度やっても嫌な異物感だ。押し黙ったケイオスが時々ローションを継ぎ足し、後ろが濡れていく。
「間抜けな格好だな」
「はっ…ぁ、……っ、死ね」
片方の足を引き上げられ、わざと広げさせられる。ぐちぐちと音を立てる穴を観察する目と、体中をまさぐる手に呼吸が乱れた。隠すこともなく放置した前を掴まれて、快感に騙されたように中が拡がっていくのがわかる。ふとキスをされれば、指を締めつける。これではこの男に開発されたようなものだ。
「もういい。体、楽にしてろ」
「お前が決めてんじゃ、ねぇよ…」
「そういう態度が逆にそそると前に言わなかったか?」
「悪趣味だって前に言った気がしたな。覚えは?」
「さあ、覚えてないね」
ケイオスはこんな時ばかり優しいと感じさせた。お互い妙なタイミングで笑ってしまい、背を向ける。体位はほとんどがバック。例に漏れず文句はなく、ただ今回はソファーを降りようとして膝を庇う理由で引きとめられただけだった。後は、背後でする呼吸音が生々しい。
「……ぅ、わ…、ぁっく、んっ、ぅ…ッ」
押し入ってくる熱を意識して息をする。当たり前だが指以上のそれが、男が入りきるのを待った。肉と言うよりも内臓を掻き分けてくるような圧迫感は、じきに馴染む。初めて受け入れた日となんら変わらない。この先で目が回るような快感が待つのも同じだ。
「はっ、キツいな……もう少し緩めろ」
「う、ぐっ、んんっ…ぅ、はぁ、あ、…クソ!」
撥水性のある革の上を透明な液体が滑り、それが汗なのかローションなのか、はたまた別の液体なのか、わからない。背中に置かれた手の熱さや、際どく耳元から首にかけて落ちてくるケイオスの低い声に痺れが生じる。参ったことに、抱かれるというのは気持ちいいことだった。持つべき自尊心も羞恥心も飲みこまれる。
「相変わらず、具合がいいな」
あくまでもスローペースで、奥までを犯してケイオスが笑う。顎をすくわれて嫌に優しいキスをされると、体は勝手に勘違いし始めた。全身で好きだと縋るように溶ける瞬間だけはいつも怖い。腹の底から熱くて、喉を通り過ぎた音が甘くなる。
「言ってみろ、アナコンダ。俺が好きか」
「あぁっ…!ぅ、あ…っ…は、誰が、言うかよ…!」
「今日も言わないつもりか」
間抜けに腰を振りながら言われても響かず、俺はきっといつまでも誤魔化し続けるのだろうと思った。
「お前の体だけは、ずっと、好きだよ」


そうして、朝が来る。セックスをして、だるい体を引きずられるようにしてシャワーを浴びて、滞りなくベッドで眠りにつける。これまで通り問題はない。あまりに静かな寝息が聞こえてふと隣を見つめ、皺の寄った眉間と僅かに黒ずんだ目元を指先でなぞる。起きる気配のないケイオスを置き去りに、朝食は軽く済ませようと俺は黙ってベッドを出た。



150624
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