(ブラー×ショックウェーブ)R18



ブラーは慎重な足取りで室内へ滑り込むとドアをロックし、闇の満ちた中を1つの赤い目印に向かって歩いた。床に近い明滅するオプティックが揺れて上体を起こせば、そうっとあげた足で突出した肩部を蹴る。再び床に背中を打った男は喉の奥で噛み殺した笑いだけを寄越し、ブラーは極力無感動に努めて傍へ膝をついた。芋虫のように這いずった体に密着されると、苛立ちのまま殴りつけたくなった。
「今日も来てくれたんですね、ありがとう、ブラー」
囁かれた台詞の甘さはぞっとするほどで、ブラーが拳を固めると男はおかしそうに息を漏らす。二つの青い瞳も、柔和な笑みも持たない誰かはいつも闇の中で呼吸した。手錠に束ねられた先で鋭い6本の爪が蠢いている。黒によく馴染む紫のボディの胸の印は、溶けて歪み、泣いたような顔をしている。
「いつものように、するんでしょう」
ブラーは沈黙に不安を抱いて欲しかったのかもしれない。表現力の欠けた顔が近付いてキスに似た仕草を繰り返すと切なくなった。標準的なフェイスプレートを持たない唇のない男が動くと、赤い光だけが通過していく。愛しいロングアームの面影の欠片を探そうにも、上手くいかない。狡猾なディセプティコンはいつも何かを欺いていると思っていたが、疑う度に不安定に再構築された心にヒビが入るようだった。ブラーが現実に立ち向かえるときには、唯一、名前を呼んだ。
「ショックウェーブ」
「どうしてそうやって目を背けようとする。演じてやっても構わないのに」
「あなたはショックウェーブだ」
「ねえ、ブラー、……からかい甲斐のないガキになるなよ」
巧妙に変化した声音を受けて、ブラーは再び口を噤む。望んでいたはずの微かに苦しんだそれを聞けても、胸の内は晴れなかった。無抵抗に体を預ける男に回した腕は震えて、足を拘束する錠に指の先が触れ合うまでには時間がかかった。
「焦らしてるなら、いい趣味とは言えないな」
ショックウェーブは排気して脱力したまま、両足が左右に割られるのを無視した。これから起こることに対して、一度も怯えを見せなかったことが過去に由来しているのか、ブラーには分からない。体格の上回った相手の股へ躊躇なく指を滑らせ、開いたハッチに指を差し入れる。中はすぐに湿り気を帯びて、硬質な肉が徐々に変化していく。
「ッ、う……なあ、おかしいだろ、俺の体は」
ブラーは目の前の体の感度が高いことや異質な有りように特別な興味を示したことはなかったが、体の主は続けて笑う。ショックウェーブは男性型の大半に付随するコネクタを持っていなかった。その代わりに、通常役割を果たすことなく終わる後ろのレセプタへと神経が集中し、商売女や娯楽の性具に近い性質を備えている。だからといって、言い含められた意味を追うだけ無駄だ。
「俺は一体、これからどう生かされる」
「………」
「お前は……俺を殺さないんだろう。オートボット」
「僕の傍にいればエリートガードが安全を保障する」
「こんな、ところに…っ、閉じこめて、っ、あん、ぜ、んも…、なにも……」
ショックセーブが快感に沈んでいくのを冷やかに見つめ、そのくせ内に湧き上がる熱にブラーは歯噛みした。2本の指で解かせたレセプタは多量のオイルを分泌している。どこを擦ってもぐちゅぐちゅと耳障りな音が付きまとう。やがてショックウェーブは平らな胸を喘がせて、尖った爪の先をブラーへと伸ばした。
「ほら、来ればいい」
助けを請うポーズで今度は気取って招く姿が、ブラーの目にはまるでピエロが泣くように映った。指を退けて温い胎内にコネクタを埋める青さに、ショックウェーブの目は眩む。オーガズムに達して蠕動する肉から逃れる術もなく、奥を濡らしたのを感じると次いで脚が痙攣した。
「はっ、ぁ、っく……ッ、う、あっ」
だらしのない声がひっきりなしに上がると、自分を見失い始める。ショックウェーブに限らず、ブラーもまた抱いているのが誰なのか時々曖昧になった。ロングアームでもなくディセプティコンでもなくなった男は何者になってしまったのか、ブラーが望んだように苦しんでいるのか、絶えない熱の奔流に紛れていく。喉を過ぎて音になりそうな感情も、消え失せる。
「ショックウェーブ、気持ちがいいの、これが」
「ああ、そうだ、これで何時でも逝けると思うんだよ」
ショックウェーブは笑ったが、ブラーは笑うことができなかった。

接続行為が終わってもブラーは視線を落としたまま無言で、ショックウェーブの体を清めた。洗浄液に浸した布で機体の表面を擦り、細かな傷に指が引っ掻かれば次回に塗料を持参する。饒舌な男のやたらに早口な土産話は、何時までも聞くことが出来ない。捕虜と言うには待遇がよすぎて、目的は見えてこない。それでも今日もまた、現れる。
「よぉ、オートボット。また来たんだな」
「来ましたよ、当たり前だ。僕はあなたを許さない」
声音に滲む呆れの中に喜びが混ざっていないかを探して、際限なく落胆する。
「あなたを監視することが僕に課せられた任務だからね」
「任務で俺を犯すのか。オートボットは変態の集まりかよ」
「……好きな癖に」
「さあ、言ってる意味がわからんよ」
ショックウェーブがおどけて見せる。ブラーは光を背にして、前へ伸びる影の先に横たわった異形の男を、何度か殺してしまおうかと思ったこともあった。けれどそこへと至らなかった意味は未だ知らないままでいたかった。酷い裏切りは命を削り、もしも奇跡が起きなければ恨むことも出来なかったに違いない。表裏一体な感情は、あの箱の中に閉じ込めたままだ。それが育まれていくのかも、未知であった方が互いの為だった。



150203 題:DOGOD69
[ back ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -