(マクシーム←アラム×ヴィクトール)R18



闇から手を差し伸べるようにして男が笑いかけ、戯れにしては度を越した仕草で乱れてみせる。地に這い腰を振る浅ましさにアラムは落胆と同時に憎悪し、また酷く哀れんでその体を貫く。肛門に雄の性器を差し入れ、しとどに股間を濡らす姿はまるで雌だ。悦びにうち震えた声は細く甘えて、アラムの切り落とされた耳に不快なほど飛び込んでくる。階級を同じくしながらも優秀な頭脳と肉体を持つ彼に、かつての面影などないように思えた。
ヴィクトールは俯き耳を伏せ、土を握りしめるように踏ん張って吠える。だらしなく開いた口の脇から舌と多量の唾液を垂らし、焦点の定まらない目で向こうを睨みながら。アラムは後ろから被さり腰を前脚で掴んで、首に牙を食い込ませて更に奥へと侵入を試みた。するとより快感の強くなったヴィクトールが蕩けた穴を絞める。
「あっグゥ〜〜っ、ぅ、ハァッ……もっと、もっとだ…!」
唸りを上げて精液を迸る赤く色づく性器は未だ縮こまることはない。ヴィクトールは振り向き、皮膚が剥き出しになったアラムの鼻周りをベロリと舐めた。それを嫌い体位を変えられることを知っての挑発であり、思惑通りにアラムが動けばほくそ笑んだ。ヴィクトールの体内ではアラムの亀頭球が膨らみ、結合は容易に解かれず尻を向けあう体勢で再び律動が開始される。
「ヒッ、ぃっ…あっ、んぅう……っ、アラムッ出せ、中に……っぁっ、はゥッ…!あっ、ぁああっ…ッ」
性交で快感を得ているのはヴィクトールだけではない。アラムは耳障りな嬌声に顔を歪ませて射精感に震える。出さなければ終わらない行為は虚しく心を打ちのめすというのに、熱心に雄を食む穴を持つ男は腰を振り乱して許さない。間もなくしてアラムが絶頂を迎えれば、ヴィクトールもそれに同調した。2匹は暫く痙攣し、最後の一滴まで出し終わると荒い息のまま結合を解除する。
「フハッ、はっ……ぅっ……ふふっ」
途端、尻の間からびちゃびちゃと液が漏れだし、ヴィクトールは濡れた性器を露出させたまま横向きに倒れて笑っていた。気怠い空気に苛立ちの隠しきれないアラムが、己の性器を舐めて綺麗にすると早々に背を向けるのが可笑しかったのだ。
「アラム、おい、もう行くのか。冷たい男だな」
「勘違いするなヴィクトール。オレは好きでお前を抱くわけではない」
「女々しい奴だ。呆れるよ」
ヴィクトールは情事の名残を慈しむように毛に絡む雫を舐め取り、体内に残されたものに目を細めた。アラムの子種が生命となることなく消えることすら快感となるとでも言いたげに、忙しなく舌舐めずりをして不快感を掻きたてる。体の繋がりを解けば何故あんなおぞましいものを求めていれたのかと、アラムは自身に裏切られる気持ちになった。
「またマクシームに泣きつくのか」
「貴様が勘繰るような関係ではない」
「はっはは……強がるな。あいつは優しい、お前のように醜い奴の相手もするさ」
「……失礼する」
アラムは今度こそ歩き出す。自身の容姿や行動を非難されることよりも聞き捨てならない台詞だった。以前のアラムならば反論もしただろうが、ヴィクトールと共犯関係にある今では偽善の一つも言えない。茂みを抜ける途中、入れ替わるようにボズレフがヴィクトールの元へと向かったのが見えた。


誰にも会うことがないように注意し、迂回して荒れた海へと足を向けたアラムは匂いを消すことに努めた。間違っても揶揄された通りにマクシームのところへ行けるはずもなく、じっと濡らした全身の毛を潮風が嬲る冷たさに俯く。命を救ってくれた恩犬であり友で有り続ける彼には、これ以上醜い心を晒したくはない。左目を犠牲にするだけの価値が今の自分にあるのか甚だ疑問だが、せめて偽ることで報いようとも思っていた。
しかし、いつも彼はタイミング悪く現れる。
「こんなところで何をしている、体を冷やしすぎるなよ」
そう言ってマクシームは隣へ並ぶ。それだけで、アラムの左半身が少しだけ熱を持ったように感ぜられた。
「……お前こそ何をしにきたんだ」
「姿がなかったから探しにきた。話したいこともあったんでな」
「話したいことだと?」
ああ、と頷いてマクシームは波の荒立つ遠くを見つめる。話題は容易に予測できた。ここ数日は軍幹部の間で他国侵攻の話がまとめられつつある。第一に志願した男と先ほどまで会っていた後ろめたさに、先回りもせず鼻を舐めて言葉を待った。マクシームは元帥の息子だ、先にアラムが志願したことも耳に入っていることだろう。
「ほぼ確定だそうだ。隊は予定通りに3つ」
「………」
「オレも志願した。元より選ばれるはずだったんだが…元帥は喜んでいたよ」
「ハッ、親孝行なことだな」
「皆のために必ずや豊穣の地へと辿りつかねばならん」
マクシームはそこで言葉を切った。人間の都合で常に死と隣あわせで生きて、果ては極寒の大地で餓死などあってはならない。己の正義を秘めた黒い瞳は彼方を向いて、アラム一匹を優しく包むことは生涯ないと、身勝手に自嘲しておくことでまた保身に徹する。あの青い非情の瞳でさえ熱を持つと知っているのに、たった一つの煌めく光は知れないのだ。
「だが、オレは正直迷っていることもある。侵略だけが全てなのか、共存が真に目指す道ではないかと」
「そんな甘いことを言えば再び争いが起きるだけだ」
「戦争をしないために他者の命を奪うとでも?」
「正義漢ぶるなよ。単純に考えろ、生きるためにやるんだろうが」
ふと感情を隠した瞳を向けられ、アラムはドキリとしながらも言い捨てるしかなかった。マクシームには未だ守るべき家族がある。特別な隊の編成がなければ、妹のリディアでさえ戦場へ送られることとなることが引っかかっているのだと見て、無理矢理に笑みを作った。忌むべき男の真似ごとのように滑稽な残虐性を盾にして、アラムはマクシームから離れることばかりを考えて生きてきた。
「アラム、オレはお前が心配なんだ」
「……他人の心配よりテメェのこと心配しろ」
「お前にどう思われようが構わない」
「勝手にしろ」
「言われずともそうするさ」
アラムはマクシームの穏やかな最後の言葉を背で受け取り、逃げ出すように歩きだした。見送る視線の意図も探る余裕なく、酷く重たい心に反して急いた足が辛うじて軽いことだけが救いだった。マクシームは聡い男であったし、向けられる感情にも真摯だ。アラムが全てを伝え許され、応える奇跡が起きようとも、信じることは恐ろしく破綻に怯えたくはなかった。裏切られるのなら期待はしない。アラムにとって殺戮と淫事に溺れるヴィクトールが、時として心を支える存在であるのも事実だった。
マクシームとも他の仲間たちとも十分に距離を取り、アラムは疲れたように蹲る。いっそ愛しさの意味も知らずに生まれおち、彼に出会わず死んでしまえばよかったのだ。思えば涙が零れ、アラムは何を呪うでもなく嗚咽した。



141107
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