(ランボルとサンストリーカー) 



「なあ兄弟、どう考えてもおかしいとは思わねぇの?」
「俺だってそこまで馬鹿じゃない」
「それじゃあ何時んなったら辿りつけるんだよ」
「あのなあ、誰のせいだと思ってるんだ」
「お前のクソナビのせいじゃん」
サンストリーカーの言葉に苛々とした様子でランボルは振り向いた。数時間前、唐突にどこかへ遊びにいきたいと言い出したのは誰だ、しかも途中で急に海がいいと言い出したのは誰だと言葉を飲みこむ。跨いで通れるような細い川の水面に映る顔をしきりにチェックしているような奴に言われたくはないが、もう一度己の信じたナビゲーションシステムを洗い直す。ランボルにどこかで道を逸れた覚えはない。確かに、胸を張れるはずだ。しかし目的地に辿りつかないというのはどういうことだと、再度首を傾げる。
「これじゃあ帰るまでに日付が変わってママがオカンムリも有り得るぜ」
「お前それプロールの前で言ってみろよ」
「実践済みだからもう怖いもんねぇな」
「は?嘘、それいつの話だよ。何か言われたか?」
「いつだかは忘れたけど、すげー真顔で詰まんなかった」
「プロールもお前に付き合うの飽きてきたよな」
「俺っていうか…最近ピリピリしてんだよな、誰かさんのせいで」
手持無沙汰の黄色い片割れはとうとう水遊びを始める。落ちていた枝でパチャパチャと混ぜると泥で濁り、ご自慢の顔が映らなくなれば飽きて座り込んだ。ランボルは呆れたように目線を外し、周囲を見渡す。木と木と木と木と葉と草と石と土と川と、サンストリーカー。山の中にはこれといった娯楽がないものだ。海に連れていけというのも理解できるが、あの時既に遊びの道具になっていたのは自分だったとランボルは今更感づく。
「ランボル、俺もうマジで暇なんだけど」
ランボルは俯いて呟いたために隠れたサンストリーカーの表情が、実はニヤついているのではと疑った。馬鹿馬鹿しくなって、インストールされた最新の地図情報を頭の隅に追いやる。意図して冷やかに「じゃあもう帰れよ」と言ってやったが「そうしたらお前帰ってこれねぇじゃん」と更に馬鹿にされた。サンストリーカーの性格など、嫌というほど知っている。口で負かそうとも思わない。
「もう空から行った方が早くないか?」
「お前飛べるのか?俺いまジェットパック積んでない」
「俺のも前の別行動でコンドルの野郎に…って駄目じゃん。使えねぇな」
はあ、と同時に溜息をつく。川沿いに進んでいけばいつかは辿りつくだろうが、徐々にその気も削がれていくのをお互いに感じていた。ランボルもサンストリーカーの隣へ腰を落とし、妙に間延びした空気のままで他愛のない会話が始まる。
「これじゃ外に出た意味ないだろ」
「別に海なんか何時でもいいし、ある意味貴重ではある。暇だけど」
「俺だって暇だよ」
「ランボルが迷子にならなきゃこうはならなかったのにな〜」
「お前が俺任せにしたのが悪いだろ」
「認めたな、この方向音痴」
「だからそういうのじゃないって」
「別にいいじゃんかよ。俺がいるんだしさ」
「ぜんっぜん心強くない嫌なオマケだな」
「俺がいなくなったら寂しいだろ、ランボル」
「困るのはお前だろ、サンストリーカー」
わずかに首を傾け横目に視線を絡ませて、土を掻いたランボルの手と、水で濡れたサンストリーカーの指が重なり握りこまれて音を立てる。それから声もなく同じだけ距離を縮ませ、唇が触れるだけの位置に達した。呼吸が混じった後には角度を変えて鼻が擦れ、ふと笑ったのはランボルの方だ。
「ご自慢のイケメンが台無しだな」
「俺はなにしたってイケてるっつの、ふざけんな」
サンストリーカーのわずかに上ずった声に心が痛みを帯びて震える。青いオプティックの縁でキラキラと光るものを掬い、ランボルがそっとその肩を押して地面と体とで閉じこめると、影の中でますますフェイスプレートが歪んだ。出任せに語る口から漏れ出した嗚咽の理由は知れない。けれど傍にいなければという思いや戸惑いは、すべて2つに別たれたスパークが回帰を求めて戻れずに足掻くからだ。
「ずっと一緒にいろよ、兄弟」



140927 題:凱旋
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