(ダイヴァージョン×ムスターヴェルク)R18



蹄鉄が藁を噛む音がだんだんと忙しなくなり、薄暗闇にたたずんでいた牡馬が血走った目をぎょろぎょろと動かしているのが遠くからでも解る。想像に難くない光景に薄く笑い、あと十数メートルもすれば怪物がその姿を現すことに胸が躍った。ダイヴァージョンは深呼吸すると、その昂りを悟られぬように澄まし顔で歩きだす。馬房の前、鼻を鳴らすと奥でフェルデンの怪物の異名を取るそれが立ち上がった。
「落ち着けよムスター、そっち避けてろ」
相変わらずの興奮状態でムスターヴェルクが声に反応し出入り口から体をずらすと、ダイヴァージョンはドアを器用に押し開け、広い馬房の中へと足を踏み入れる。気性の荒い牡を入れておくにはあまりに頼りなさげな造りだ。遠征の度に退屈な馬房では時たまそうして観察するものだが、今日はその退屈を紛らわすいいモノがある。すぐ傍で鼻息荒く、彼にしては比較的大人しく足踏みを繰り返し、早口に何かを呟いているようだがそれを聞きとれた試しはなかった。暫しそれを楽しむように立ちつくしていると、ムスターヴェルクが痺れをきらしてあばらに弱すぎない頭突きをする。
「わかってるって焦るなよ」
ダイヴァージョンはくっくと喉で笑い、場所を入れ替えて藁の上へ座った。それに誘われるようにムスターヴェルクは頭を低く下げ、鼻先で股のあたりを探る。それだけでぞくぞくと全身を駆けた興奮に片脚をあげ、恥部を見せつけるように寝そべると大きな鼻の穴がブハーッと熱い息を吹きつけてきた。露出したダイヴァージョンの長大なペニスがぴくんぴくんと跳ねる。
「噛みつくのだけはナシだからな」
おおよそ言葉を理解しているとも思えない凶悪な顔が臭いを嗅ぎ、次第に声も官能で濡れていく。そうしてダイヴァージョンが見つめる中、ムスターヴェルクは躊躇なくペニスを口に含んだ。切歯で表面を軽くこすられ奥から伸びた舌が尖端を容赦なく舐める。
「あっ、くぅう…!」
強い快感にダイヴァージョンが呻いて首を左右に振り、一瞬だけムスターヴェルクが目線を寄越し、また好物にありつくようにフェラチオを続けた。唾液でべっとりと濡れそぼったそれが主の呼吸に合わせて揺れれば吸いつき、不器用なのではなく適度な刺激を与えるように甘噛みをする。回数を重ねただけこの怪物も学習するのだとダイヴァージョンは前脚で空を蹴った。
「はあっあっ、ムスター…ッ、いいぞ、上手だ」
じゅぽじゅぽといやらしい水音を聞きながら満足げに呟く。こみ上げる射精感に顔をしかめて首をまた振ると、ムスターヴェルクの足の間で揺れるものに気付いた。ダイヴァージョンのものよりも少しばかり大きく、赤黒い凶器のようなそれが液を零してこちらを狙っているようで、また別の快感に襲われる。腹をひと際大きく上下させ、ダイヴァージョンはひゅうっと息を吸った。
「クソッ…!出るっムスター、そのままっあっ出…うぁああ!」
臼歯で尖端を弱く噛まれたのを決定打にダイヴァージョンが達する。ムスターヴェルクは口内に放出される精液に驚きびくんと震えて反応したが、それを吐き出そうとはせず萎えていくペニスを丁寧に最後まで舌を絡ませていた。ダイヴァージョンは汗ばんだ体を隠すように上げていた脚を下ろし、眼前の藁を吹き飛ばすように深呼吸する。この後に待ち受けることの心構えはいつも不十分だった。牡同士、人間に管理される世界でも自然界でも不可解な関係の中にあるこの行為。最後の一線を超えることはないが、それでも少しの恐れはあった。
「ふっ…ぅ、ッ……ダイヴァージョン…!」
「そう睨むんじゃねえよ…待てって、俺もしてやるから……」
「当たり前だ」
ムスターヴェルクがブホッブホッと応えるように息をして何度も強く地を蹴って尻を向ける。ダイヴァージョンが覚悟を決めて頭をあげると、すぐそこにはすっかり期待したペニスが足踏みに合わせぶるんぶるんと揺れていた。不快感を伴う臭いに戸惑いながら、先ほどのムスターヴェルクがしていたようにペニスを口にする。他馬に強要はできても自らの口淫など正気の沙汰ではないと身勝手に思い、かすかに涙が滲む。
「んっんご…っ、んぶっんっんううう」
上顎を異物が掠める感触に吐き気を覚えても耐えた。間欠泉のような息遣いでムスターヴェルクが尻尾をバサバサと大袈裟に振り、さっさと射精してしまえとダイヴァージョンは恨めしげに奉仕する。舌で感じるペニスの質感も液の味も、鼻を包む異臭も気にかけないよう努力する。それから間もなく嫌悪感がピークに達する前に、その時は訪れた。ぐわっと前脚をあげて怪物が嘶く。するとダイヴァージョンの口からずるりと抜けたペニスは多量の精液を、真下の黒いくせ毛にぶちまけることになった。
「おい!このっ馬鹿…!なにすっ、かっ顔に……!」
びたびたと降り注いだそれにダイヴァージョンはわなわなと体を震わせて怒鳴った。しかしムスターヴェルクは暴れるように藁を踏み荒らすだけで聞く素振りも見せはしない。これまではタイミングを計り回避することが出来ていたというのに、怒りと悔しさで顔が熱くなる。仕方なく頭を振り、顔を流れる液体をどうにか振り落とそうにも上手くいかず、結局周囲へ擦りつけようとして制止されてしまえば、目の前の脚に噛みつきたくなった。詰められた前脚を辿り、ムスターヴェルクへムッとした視線を向ける。悪びれた表情の一つもしない牡は、ただその顔を近づけてきた。
「な、んだよ」
間近で見る瞳に思わず視線を逸らすと、べろんとピンク色のぬめる物体が顔を滑る。ダイヴァージョンは一拍間を開けて、声にはならない声で「ムスター?」と疑問をなげかけた。ムスターヴェルクは一心に顔を舐め、その汚れを払おうとしているようだった。それによって不思議と毒気が抜かれる感じがしたが、これだけでは許すまいと顔を引き締める。
「……次は、許さないからな」
「ハハッ気持ちよかったからいいだろ、別に」
丁度鼻先が触れ合う瞬間にダイヴァージョンが噛みつくような口付けを試みると、無邪気な怪物が尾を高く振り回した。



140830 (加筆1122)
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