(エルサレム×ストーンド)擬人化
再会のハグからベッドまで待ちきれずに脱ぎ散らかした二人分の服を拾い集め、ストーンドはようやくソファに腰を落ち着けた。スマートフォンを手に3日のうちに溜まった着信履歴を流し見、急を要したらしいメールに事務的な返信を終えて寂しい唇にシガレットチョコを挟む。そうしてベッドを一瞥し、昨夜の情事に 思いを馳せて溜息をついた。愛しい男は未だ夢の中、ここからでは髪の毛一本すら見えない。ついさっきまでこの肌に絡んでいた腕は羽毛を抱き締めるのも虚し く今は膝を抱えているだろうか。
フランスからドバイへの長旅は慣れたもので、ゲストハウスのドアを叩いてろくな会話もせぬままに通常のセックスに至ってもなんら問題はない。むしろストー ンドとしては貪欲に食らいつくように、けれど労わる心も忘れずに力の加減をした手は座りっぱなしで凝った尻に心地よかった。それからずっと食事や生理現象 以外の用でベッドを抜けた覚えはない。やらなければならないことが、山のようにはなくとも、確かにあったはずなのだが。とりあえず、掃除と洗濯から。
「ん?起きたか」
寝台の白い塊が蠢く。バイブレーションで知らせる返信の返信は無視してクッションに向かい端末を放った。ぬうっと白から伸びるショコラの腕が美しく、見惚れてしまう。
「……、ストーンド……?」
恋人を探す指先が枕にかかり、掠れた声に誘われる。嘆息して立ち上がるとベッドへ腰かけ、とびきりに甘い音で挨拶を交わした。寝ぼけ眼が青い瞳をとらえて 安心したように閉じて、また開く。黒髪に隠れた額の傷痕へ軽く口づけてやれば夢から覚めたエルサレムが唇をねだり、ストーンドは渇きを慰めるように重ね合 わせる。
「甘いな」
チョコレート味のキスに頬を緩ませる表情はどこか幼く、背負うものの強大さに少しだけ気後れした。エルサレムは白いシーツに生える浅黒い体をくねらせ、 ベッドの半分を明け渡す。ストーンドは素直に温い隣へ横たわり、逞しい胸へ顔を寄せる。優しい手のひらが髪を撫でて、抗いようもなく満たされた。
「もう少し、このままでいてくれ」
「ほんと甘ったれだな」
「それが可愛いんだろう」
「自分で言うな。ま、事実だけどよ」
腕の中のストーンドの髪や鼻先、吐息に擽られたエルサレムがくすくすと笑う。窓から差し込む日の光はすぐそこまで来ているというのに、離れがたい。まだこのまま深く恐れを知らぬ眠りに落ちてしまい気にもなる。
「お前も可愛らしいと俺は思うが」
「なんだよ、くすぐったい」
くすんだ金色を掬う指先が耳の裏を掻いて、つうと項へ滑る。熱っぽい声の揺れ。さきほどのストーンドを真似して傷のない白い額に触れたエルサレムを、拒め ない。それどころかストーンドはその先を期待しているように大胆に足を絡ませて、その鮮烈な色香で惑わそうとしていた。無意識のうちに手のひらは腰へ絡み 付き、無駄のない美しい筋肉を感じる。乱れてしまいたいと、どちらともなく欲情した。
「なあ、エルサレム……」
「まさか嫌なわけはないだろう」
「よくわかってるじゃねぇか、上等だ。もっと、って言おうとしたんだよ」
ストーンドはなだらかな喉元に噛みついて、その下を流れ全身を巡る二人分の苦い血液を景仰する。遠い昔のようないつかと同じ今日この日、憧れの彼の亡骸へ幼い唇を寄せた男が生き長らえ罪を背負った日の、幻のような朝のできごと。
140722
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