(キャプテンシャーク×レオン) 



食糧の調達と観光も兼ねた地球によく似た星はその日、雨が降っていた。レオンは柔らかな泥の上を歩き、一歩踏み出す度に沈む大地へ巨大な足跡が残されるのを楽しんだ。遠くが白く霞むほどの大雨をものともせず、どうせ風呂には入っていないのだからと嬉々として走り出していった幼い主たちは今頃街の中だろう。そしてつい先ほど到着したキャプテンシャークの主、イーター・イーザック一行もそれに合流しただろうか。そう思考を巡らせているうちに、深い森へと辿りついてしまっていた。雨音だけの生に満ちた場所は、どこか懐かしさを感じさせるほどに優しい。だが、その穏やかさは重厚感のある足音にすぐさま破壊された。
「こんなところまで来てたのか、探したぜ」
木々の間を縫って現れた鮫の上にはアイパッチをした見慣れた顔が見えた。戦艦形態よりは縮むものの、ロボット形態でもレオンの倍はある巨体を揺する海賊に向かう。
「言う割に苦労はしておらんだろう。キャプテンシャーク」
「まあな。今回は長旅だったから、お前の顔見れると思ったら張りきって帰ってきちまったよ」
「ご苦労だった」
「そっけねえ返事。そこは私も会いたかったですわ〜とか言ってもいいんじゃねえか」
シャランラの真似をして体をくねらせたキャプテンシャークに失笑して、レオンはその傍へぴたりと寄り添った。レジェンドラ到達から数カ月を過ぎ、正式な婚約を果たしたイーターとシャランラのハネムーンにキャプテンシャークが同行して数週間。こうした戯れも久しく、より愛しさが募った。
「キャプテンシャーク」
「ん、なんだ?」
座りこんだ二人を包むほどの巨樹に隠れた空間。待機中のアドベンジャーたちとは随分離れたと言っても、ビークル形態をとればさして問題のある距離ではないというのに、まるで異空間のような不思議な心地良さに酔いそうになる。レオンが濡れた機体へ手を置くと、同様に大きな手が自然な仕草で肩を抱いた。ふと、一瞬だけ雨が止んだと錯覚する。強い瞳を見つめ返して震える息を殺す。
「よく帰ってきた」
「おう。こっちは変わりなかったか」
「ああ、変わらず賑やかにやっている」
「俺がいなくても寂しくないくらいに賑やかだからな」
「拗ねるでない。他がどうであれ、私はお主がいた方がいい」
触れた唇が空白を埋める。瞳を伏せて、深い闇色の広大な海を自由に行く彼の姿を見た。
「可愛いお姫さんだ」
「私は将軍だ」
くっと零れかけた笑みを呑みこんでキャプテンシャークが口付けを再開する。それに応え大胆に開けた口内に舌が潜り込み、レオンは装甲を指先で掻いた。ぬるりと滑らかに絡み合って、擦れる。頬を伝った雫までもを巻き添えに、しとしとと降り止まない雨に冷やされないだけの熱を守る。冒険を続けるなかで手繰り寄せた幸せを分かち合える存在に安堵した。レオンにとって、他の誰かでは与えられないような悦びを持っているのが、キャプテンシャークだった。
「……、お主との口付けは、いつも辛いな」
「からい?」
「ああ、じりじりと痺れるような感覚をそう言うと主に教わった」
キャプテンシャークがふむと首を傾げる間、レオンはカズキの言葉を反芻していた。じんと小さな痛みを伴うというのに、不快どころか気持ちのいい舌への刺激の正体。あくまでも人間の感覚であり、味覚を要さないレジェンドラの勇者にも同様の感覚があるかは不明だとされたが、表現としては的確であるとレオンは気に入っていた。だがキャプテンシャークは「違うな」と続ける。
「俺は甘いと思うぞ」
「甘い?」
「船長、というか…そういうのはほとんどお嬢ちゃんの台詞だ。好きなやつに触って嬉しいってドキドキして……言っててむず痒いが。とにかく好き合ってりゃ何でも甘いもんらしい」
「ほう、そうか。男子と女子では相違もあろう。どちらにせよ、悪くはない」
肩を抱く手を離れレオンは改めて正面に周り、胸部の凶悪な鮫の鼻先へも唇を寄せた。雨の匂いと冷えた金属の感触の後に見上げたキャプテンシャークの頬が赤く色づいている。それはこちらも同じだ。そうして拗ねて尖ったそこを今すぐにでも啄みたくなる欲求に抗い、言葉を待つ。
「レオン、そっちじゃなくてこっちにしろよ」
「お主こそ愛い奴だ」
ついと首を伸ばして触れさせ、未だ熱を帯びて求めているのが可笑しい。間もなく暗い雲が流れ、突き抜けるような空の青を我が物顔で尊大に泳ぐ鮫を眺める楽しみを胸に、治まらない体の火照りを雨が消し去ってしまわぬよう、レオンは濡れた体を優しい恋人に預けた。



140608
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