(スプリンガー×プロール)擬人化



肩口を撫でる嫌な寒気に身震いして、のろのろと体を起こした。申し訳程度にかぶせられていた布団から溢れた羽が素肌を擽り、引き裂かれた布の無惨な穴に手をかざす。冷えて感覚のない指の先ではその柔らかささえ知ることはなく、手のひらをぎゅうと握りこんだ。とにかく、体が冷えきっていた。昨晩の熱はどこにいったのかと見渡せば、部屋の隅でそれをたぎる怒りに変えた男がこちらを睨み付けている。
「人殺し」と、それが罵った。肌は日に焼けていて、張りのある逞しい筋肉がバランスよくのった肉体が男性的に悩ましく、思わず目を細める。爪の先が黒ずんでいたことはその節くれ立った太い指が首にかかった後になって気付いた。硬い指の腹が、食い込む。肉付きの悪い対称的に白い体は触れられるたびに軋んだ音を立てる。それでも、枯れ木を折るまでの荒々しさは彼にない。
「随分と機嫌が悪そうだな、スプリンガー」
首にまとわりついた熱だけが、現実味を帯びていた。太い首輪のような手だ。実際、目の前の男はプロールの心を繋いでいる。スプリンガーにその気がなかろうと。
「私を憎んでいるのか」
「お前のことは愛してるよ、最悪だ」
プロールの病的に青白い顔を見るのは初めてのことではなかったし、闇の中に隠された半狂乱のセックスも初めてではない。随一の頭脳で生み出された戦略の下で仲間が死ぬことも、耐え忍ぶことが習慣となるほどに珍しくもない。だがスプリンガーは、決まった周期で激情を吐露することを余儀なくされている。全てをこの男のせいにして、甘やかされることに浸るのは悪くなかった。
「愛している、か。私もだと言えばお前は嬉しいか?」
蠱惑的な青い瞳にスプリンガーは首振る。するとようやく体温を取り戻しつつある細い手指が、剥き出しの体に触れた。あらゆる細かな傷跡を、探るまでもなく記憶した地図の上で帰路を辿るかのように、プロールは薄く笑っている。さらりと乾いた髪が頬へ垂れると少し幼いと思っていた。そのまま口づけて、唇が赤くなるまで何度も吸い付きほとんどの唾液は飲ませた。気丈な振るまいが盾になった柔弱さを捕らえる。その優越感を得る頃には、スプリンガーはいつもの調子を取り戻していた。
「甘えてみろよ、プロール」
「これ以上に私を甘やかすな」
「頭はいいが、お前は逃げるのが下手なんだ」
「お前のセックスよりはマシだ」
精悍な顔つきの男に腫れた唇を再び寄せて、プロールは首輪を外した。ベッドの上だけと限定された関係から解き放れるために、何度でも繰り返したことだ。求めるのはいつでもスプリンガーであり、離れていくのはプロールと決まっている。互いに癒しを目的とした交わりには期待しない。慰めともどこか違う。暗黙の誓約を、縺れ合って飛び込んだベッドの中で重ねた瞳が確かめていた。それがより強固で複雑な執着になりえたとしても、スプリンガーがプロールを、プロールがスプリンガーを、自らの意思で殺せるように。
「シャワーを浴びたい」
「もう少し眠れよ」
「お前の役目は終わった」
つれない奴だと笑うスプリンガーの声にはそれらしき情を全く感じられずに済んだ。演技の上手い男だと鼻を鳴らし、プロールは震えた膝に力を込める。床板の冷たさに過敏に反応すれば鳥肌が立った。最上級の熱を知ればこその悪寒は後で吐き捨てるとして、押し込めた真実が悪質な寄生虫のように暴れだしても、男は別れを告げて裸足で不器用に逃げていった。



140527 題:花洩
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