(スモークスクリーン×ラチェット) 



握った手を壁の中に置き去りにした。少しだけ高い位置の表情が変わる。怯えていたのかもしれない。両腕と片足と壁に接していた背中の装備が壁に飲み込まれているのを確認すると、スモークスクリーンは右手のフェイズシフターをオフに切り替えた。完璧な拘束にラチェットの抵抗も空しく、やがて脱力する。中途半端に浮きあがった片足がぷらぷらと揺れていた。蹴りあげることも出来るくせにと甘えた腿を撫ぜて、初めて震えていることに気がついてしまった。
「……、ラチェット」
言いかけて飲み込んだ言葉が舌先から悟られてしまわないよう首元に歯を立てる。ひくひくと引き攣れる様が、過ぎた夜の熱を思い起こした。呼吸すらままならない。スモークスクリーンは目の前のものに縋りつく。ねっとりと絡みついて全身を支配されるようだ。顔を歪めたスモークスクリーンに対し、ラチェットはわざと遠くを見るようにして、それから何も言わなかった。
「何か、言ってよ…じゃないと俺、どうしていいかわかんない」
向けられたのは憐れむような瞳だ。それを向けられた意味すらも分からず、無性に腹が立った。そして同時に興奮してしまった。辛うじて自由な片足を押さえつけて、再びフェイズシフターをオンにする。無防備な下腹部へ手を伸ばし、ぎくりと歯を食い締めたラチェットをせせら笑う。
「俺、わかってるよ。ラチェットが俺を好きなんじゃなくて…こういうのが好きだってこと」
「…スモークスクリーン、私を怒らせたいのか」
「ここまでされてもまだ怒ってないならそんなの図星と一緒だよ」
意のままに物質を透過させるその手が、装甲とハッチをくぐり抜け狭い空洞に辿りつく。ほんの指一本分があるかないか、その程度の窄まりが限界に押し拡げられたことは記憶に新しい。ラチェットの呼吸が忙しなくなる。いつ訪れるともわからない痛みに怯えて強張って、可哀想だと思った。スモークスクリーンはすうと手を手前に引く。指先でようやく触れたのは体内に収まったままのコネクタの先端だ。
「う、あ…っ!」
「中で触られるってどんな感じ?教えてよラチェット。ねえ、先生でしょ?」
性感になりえないギリギリの刺激を与えられ、ラチェットが首を振る。まるで何もかもをなかったことにしようとしているような、失われない初な反応。無理矢理というほどの唐突さも強引さもなく、けれど合意の上と言えるほどの甘さもなかった形ばかりの接続に意味があったのかわからない。スモークスクリーンがその行為の中に見出せたものは侵略的な欲求だった。ただ愛されたいだけでは留まらない。満たされなければいけなかった。思えば思うほどに己の声が遠くなる。
「教えてくれないと俺はまた嫌なことをするよ。ラチェットが嫌だって泣いちゃうくらいのことをまたする。嘘、出来ないよ。だって本当は嫌じゃないんだ。覚えてるでしょ?俺がラチェットのここを咥えていっぱい舐めてあげたら、やめないでって俺の頭を押しつけた。初めてだっていうのは本当なんだろうけど、こんな体で、俺のこと、もう拒絶出来ないんじゃないの?」
「嫌だ、違う、スモークスクリーン、駄目なんだ」
「なかったことにしないでよ。俺に全部教えてよ、先生」
「先生なんて呼ばないでくれ」
何をしてもこのひとは手に入らない。光になった英雄を初めて呪った。



140124
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