(クロームドーム×ブレインストーム) 



初めて体を重ね合わせた夜にも充実感などなかった。ぐったりと横たわり、剥きだしになった項を撫でるクロームドームにブレインストームは「奪わないでくれ」と無意識に呟いたことを覚えている。「君にとってどうだかは知らない。けど私にとっては幸福な記憶なんだ、奪うな」と真実に嘘を織り交ぜてみればクロームドームは一拍おいて「そんなことはしないさ」と返しながら衝動を抑え込むように、押しあてていた手を退けた。
幸福な記憶は少しずつブレインストームの中で積もっていく。慣れるはずのなかった痛みと共に、クロームドームが差し出した手を取らずにはいられない。彼が好きだということ、彼が好きなのは己ではないこと、不幸せな現実を乗せた手の平が火照り、堪え切れないほどの熱をもたらすことすらもいつかは愛しくなる。心の中でなんて愚かなことかと彼と共に嘲る。ブレインストームはクロームドームの忘れた世界でも、ずっと彼が好きだった。どんなことをされても許してしまうくらいには、彼が小さな友人を手放せないのと同じように、好きだった。
いつか話した小さな彼のこと。クロームドームは「あいつに欲情したくない」と、しない、でも、出来ない、でもなく言ってそれから「どうして」「わからない」「好きなんでしょう?」「好きだよ」「私のことは?」「嫌いじゃないし、好きだ」と続けられた。きっとどちらも無理矢理に友愛という枠に閉じこめられている。この時ばかりは不本意にもブレインストームとリワインドは同格だと無理矢理に思いこんだ。好きだという言葉に囚われて、その夜のブレインストームはよく泣いた。優しい腕の中で子供のように泣きじゃくることを許されて、そんなときばかりクロームドームは謝りもせずに薄っぺらな愛の言葉を囁くのだ。
「彼はどうしてるんですか」とある夜に聞いた。人づてに聞かされて分かりきった映画の夜だった。その日はお互いにとても苛立っていた。クロームドームの言葉も、手も、全てがじりじりとスパークそのものを削りとっていくように荒々しかった。
「あのさ、ブレインストームは…俺が言うのもおかしいけど、苦しくない?俺は、リワインドが好きなのに」
「本当に君の口から死んでも聞きたくなかった台詞だが答えてやろう、苦しくない。私は君の友達だからね」
「友達はこんなことをしないんだ」
「私には友達が君くらいしかいないからどうでもいい。そんなことに頭を悩ませて、君はやっぱり馬鹿だ。それに今更だ。私はセックスフレンドでもいいのさ。呼び方なんてどうでもいいがね」
君の傍にいれるのなら、とは言えなかったが、ブレインストームはその後も続けた。
「君がどう思おうが構わない。どうせ私に対しては何も思ってくれなくて、彼に対しての不実にばかり怯えているような君には同情だってされたくない。私が実はクロームドームのことが好きで愛してて…君みたいなやつの一番になりたいと望んでいたとしたって、君はいつもリワインドのことを考えるに違いない。違うなら違うと言えばいい。そうして好きなように私の記憶を今までのように消し去ればいいんだ」
飲み込んだ爆弾が爆発しても、数秒と経たずにブレインストームの胸に落ちてくる。クロームドームは何も言わなかったのだ。そうして乱暴に水色の機体を揺さぶったあとで呪いのように「ごめんね、ブレインストーム」と腕の中の機体を認識して呟く。
「クロームドーム、これはね、喧嘩なんですよ。友達は喧嘩をして、仲直りをするものだ。さっきは私が言い過ぎたから君は怒って当然だった」
「君は優しすぎていっそ馬鹿だよ」
「大馬鹿者の君に言われたらおしまいだな。君が酷いから私は優しくしてやるんだ、覚えておくといい。ああ、感謝も謝罪も要らないからもう出ていきなさい。おやすみクロームドーム」



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