あなたの拳、わたしの掌 1/1



葛西は顔を庇っていた腕を解き、今にも叫びそうなのを懸命に堪えるために口を覆った。それでも乱暴に服を剥ぎ取られ、腕を抜かれる瞬間はどうしても噛みしめた歯の隙間から悲鳴が漏れる。男はもはや抵抗をされずとも苛立ったように拳をぶつけてくる。ドンッと重い衝撃が腹に響いた葛西は体をくの字に丸めて男を睨んだ。
「な、なんだその反抗的な目は!」
男は一瞬怯みながらも声を大きくすることで自分を持ち直し、呻く葛西の首に手をかける。体格で言えば葛西の方が上ではあるが、体重をかければ鍛えることのできないそこは簡単に絞まった。余りの苦しさに葛西はもがき、手の平で壁を叩いて男の腕にも爪を立てる。
「……っ!」
「ぐっ、ぇ…ッ、がッ…がふっ、ぅ……!」
目の前が霞む寸前に手は離れ、必死に空気を取り込む葛西は男の顔をまじまじと見る。愛しいはずの恋人が、鬼の形相で拳を振り上げる。か細い声で名前を呼んだが、届いた素振りは見せなかった。
「ああ、葛西君、どうしよう…!俺はどうしたらいい」
床の冷たさも全身に広がる殴打の痛みも、頭に上手く酸素が回らないのも、なにもかもが現実には違いない。葛西にとってそれは恐怖ではなく覚えのあるものだ。だから、耐えれば終わるし、また元に戻れた。

東は、葛西のプロボクサー時代のファンだった。デビュー前から追いかけていたという熱狂的なファンで、ひ弱そうな痩せた男だった。普段はとても優しく、気のいい東とは上手くいっていた。友人としての付き合いも、恋人としても申し分はなかった。けれど、東は持って産まれた特異な性癖故に、葛西を傷つけることを止められない。

「葛西君、ああ、こっちを向いて」
髪を乱暴に掴まれ、あげた顔を殴られた葛西は目の前が赤く爆ぜるのを感じた。じぃん…と響いた痛みは熱さに変わり、鼻血が出る。東が歪んだ表情を浮かべて「綺麗だよ」と耳元で囁いた。
「痛いよね、そうだよね、でも駄目なんだ」
もとが臆病な東は嗚咽して手を離し、葛西の頭が落ちると肩を殴った。葛西が事故の後遺症でリングを去った落胆は、すぐさま自らの拳での暴力へと、熱意へと変貌した。痛みで汚れた愛しい人を見れるのは自分だけ。そんな感情が東の中で膨れていくのに時間はかからなかった。
「っぁ、あ、ずま…さん……、ねえ、俺は大丈夫だよ」
葛西はずるずると重たい体を動かし、四つん這いの姿勢をとる。大きな手術痕の残る片膝だけは不安定にガクガクと震えていたが、それでも尻をあげて服従心を表した。
「だから、泣かないで。もっと酷いことしても、……いい」
東は誘われるままごくりと唾を飲み込んで、丸い尻に顔を寄せた。肉を左右に開かせてきゅっと締まった穴に遠慮なく舌を這わせる。葛西は濡らされる感触に腕までも震わせて、じっと耐えるだけだ。ほんのわずかでも解してもらえる、それだけで不思議な快感がわき上がった。
「俺たちはお似合いなんだよな」
「んっ、ぁっ、はっ、ぅんん、く、はぁッ」
「こんな状態で、俺も葛西君も勃起してる」
「ぐっ!ぅ、ぁあ…!」
ずぷんと中に指をねじ込まれ、葛西は仰け反った。指摘された通りに快感を得ていた体は、侵入した2本の指に悦ぶほどだった。ばらばらに擦られてしまうと腰が逃げかけ、東がそれを許そうとはせず引き戻す。衝撃に片膝が耐えられず崩れ落ちても、止められることはない。
「ここだろう、いいのは」
「ぃっ、あぅッ…っ、あ、ぁんん、ん゙ぅっ」
責めは的確で、性感帯を執拗にいじめられた葛西は悶えた。もはや足を閉じる余力もなく、先から濡れだした性器を隠すこともしない。真下には汗がまじった透明な水たまりをつくっていく。
「もう、いいかな。葛西君」
「はっ…はぁ、はぐっ…、ぅ……はい……」
東に気遣われて仰向けにさせられ、挿入し易いように足をひろげる。先ほどの痛みを引きずり痺れた方は、ぐいと押しやられ葛西は息を飲んだ。叫ばない方がおかしい激痛など、これからのものに比べればなんてことはなかった。
「きれいだ、かわいい、葛西君、とてもすてきだ」
正面からもう一度頬を殴られても葛西は期待に胸を高鳴らせていた。鼻から下は血で赤く染まり、東がそれを拭うと切れた唇がびりびりと痛む。心臓がどこにあるのかもわからないほどに全身が脈打って感じた。
「い、れて……東さん…っ、あず、…ッ、あぁっ」
緩く微笑んだ葛西を東は躊躇なく犯した。亀頭が中に埋まり、そのままずるずると飲みこまれていくのに目を細め、根元までを押しこめる。それから狭まった内壁を味わう余裕すらなく乱暴に腰を振り、葛西の裸の体は床の上ですべって、壁際に追いやられていった。
「くぁっあっ、はっ…んぁ、ぁ…!」
ガクガクと揺れて後頭部をぶつけながらも葛西は甘い声を漏らし続けた。強い力で腰に食い込んだ東の爪先や、めちゃくちゃに擦られて捲れそうな後ろの穴も、痛んでいる。湧き上がる官能がどこから来るのか、よく分からない。ただ熱くてどこからともなく溶けてしまいそうになった。
「葛西君、ぁあ、気持ちいいね、葛西君」
「ひッ、ん…っうぁ、あ゙あ゙っ…っあぐ、んんっ」
「君が好きだよ……好きなんだ」
「ぉ゙ぅッ、お、おれ゙もっ…、れも、っぅ、き……!」
東は熱に浮かされたように好きだ好きだと繰り返しながら、応える葛西の首に手をはめた。力を込めていけば、締まっていく。顔を真っ赤にしてヒュッヒュッと声を漏らす葛西は、ぼやける視界の中で手を伸ばし、汗ばんだ頬を包む。そうしてありったけの愛情をこめて、東の涙を拭うと射精した。



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