何が気に障ったのかはもう忘れてしまった。
ただ頭にキたのは間違いない。
売り言葉に、買い言葉。
関係が"恋人"に変わっても喧嘩するのは毎度のことだ。
彼は過保護すぎるのだ。
「もー!エミヤはいつもいつもいつも…!少しは私を信用してよ!」
「私だって信用したいがな!行動を伴ってくれないか!」
「ちょーっと夜、コンビニ行っただけじゃない!どこの大学生も…下手したら高校生、中学生も行ってるっての!」
「よそはよそ、うちはうちだ!」
「エミヤは私のおかあさんかっての!」
私もエミヤも言いたいことはガンガン言うタイプだから喧嘩は終わらない。
特に今回はいつもより長引いているような気さえもした。
「あーっ!もうエミヤなんか知らない知らないー!嫌いー!」
近くにあったクッションを投げつける。
彼は抵抗することもなく、身でクッションを受けた。
「私、クーやディル先輩と付き合えばよかった!」
血が登った頭では何を言っているかはわからなくなってしまった。
――言ってから、言い過ぎたと気づいた。
出そうとした言葉をなんとなく呑み込んでしまう。
訪れたのは気まずい雰囲気、静寂。
エミヤも口を開かない。
ダメだ、ちょっと落ち着こう。
このままエミヤと一緒にいても好転はしない。
「……」
この場から逃げたしたくてドアのほうへ足を進める。
エミヤの横を通り過ぎた瞬間、
「――っ!」
腕を掴まれ、歩みを止められた。
思わずエミヤのほうをみる。
「……行かないでくれ」
「エミヤ…?」
「私の、俺のことを嫌ってくれても構わない。……別れても構わないけれど」
俺の手の届く範囲にいてくれ。
「……なにそれ」
苦しく絞り出された言葉。
伏せられた目は私を一向に見ようとはしない。
「ねえ、エミヤ。もう私は守られるだけの存在は嫌なの。私だって守りたいよ」
ひと呼吸おいてエミヤの顔を覗き込む。
無理やり視線を合わせる。
「エミヤの見ている方向を私も見たいの」
「お嬢……」
「エミヤごめんなさい。言い過ぎました」
「……私の方もすまなかったな。そうだな、もうお嬢は子供じゃないな」
「そうだよ。エミヤの隣に並べるレディなの!」
「レディには程遠いがな」
「ひどっ!」
固まっていた空気が柔らかくなっていくの肌で感じる。
「それではレディ?お茶でもいかがかな?」
「ええ!いただくわ」
ちゃんと謝って、冗談の一つでも交わせば、ほらもう元通り。
どちらともなく手をつなぐ。
肩を並べて歩いたらこれからはまた一つ違う私たちが始まる。
そうでしょ?エミヤ。