出会いは鮮烈で。


私からしても不良からしても、叫びたい気持ちは一緒だろう。
むしろ彼らの方が「何故!?」と言いたいかもしれない。
なにせコンビニに来ていた女をカモろうとしただけなのに、生命の危機に瀕しているのだから。

「、らぁ!!」
「ひぃっ!」

ガランガランと派手な音を立てながら空を待った鉄パイプが壁に激突する。
目標にされた不良は激突はまぬがれたものの、顔面の真横にぶち当たった凶器にすっかり毒牙を抜かれ、腰を抜かしてしまっていた。

「おーおー、外しちまったか…。運いいなぁ、お前」
「お、おま…お前…」
「………」

いっそ見てるこちらが哀れになるぐらい怯えきった不良の滑舌は既に機能を失っている。
何を言いたいのか要領を得ないその様子に、鉄パイプをぶん投げた方の青年は不快そうに眉をひそめ、ザリッと一歩いまだコンクリートに座り込んでいる不良に近づいた。

「ひっ、ぅわあああああ!!!!」

途端はじかれたように不良が唯一の退路に向かって走り出す。
倒れた仲間の腕に足を取られながらも逃げ戸惑う姿は、まるで肉食動物に命を狙われた哀れな獲物のようで。
滑稽なその姿を嘲笑しているのか、それとも去り際まで醜かった背中があまりに見るに耐えなかったのか。
青年は深くなった眉間のしわを解すような仕草をして、改めてこちらを振り返った。

「さて、と」

あまりの出来事…というよりも目の前の青年の異様な出で立ちに立ちすくむ私を真紅の瞳が射抜く。
特徴的な真っ青な髪が光を孕んで煌き、まるで陽の光が彼を祝福し、人ならざる存在なのではないかと思わせるほどの神々しさを発していた。

「大丈夫か、嬢ちゃん。怪我ぁねぇか」

あ、はい。大丈夫です。
反射的にそう答えそうになって、はたと今日に限って携帯を家に置き忘れてきてしまったことに気づいた。
ちょっと近所のコンビニに足を伸ばすだけでいたので、手持ちの荷物には財布程度しか入っていない。
さて、困った。

「…嬢ちゃん?」

急にわたわたと慌て出した私の姿を見て、助けてくれた青年は不思議そうに小首をかしげた。
はくはく、試しに唇を動かして見るも、彼はますます意味がわからないという顔をするばかり。

「(あああ、ど、どうしよう)」

普通の人なら簡単に言葉で彼に感謝の意を伝えられるだろう。しかし、私にはそれができない。
怖くて声が出ないとか、現実が受け入れられないとか、そんな一過性の問題なら、気合でなんとかしていただろう。
なにせ有り金と貞操の危機を救ってくれた恩人なのだ。
それでも私が堅くなに声を出そうとしないのは理由がある。
否、正確に言えば出せないのだ。
私は生まれつき喉に障害をかかえていて、コミュニケーションの主は携帯や紙に書いた文字。
昔は思い悩んだ時期もあったが周囲に分別が付く年齢になってまで、この障害をコンプレックスに思うほど引きずってはいない。
が、今回のようなケースにぶち当たった途端、ある意味不良に絡まれた時よりも私は窮地に立たされるのである。

「(えっと、えっと…)」
「…なぁ、もしかしてお前…」
「!」

怪訝そうな顔をした青年が少し私に近づいて、こちらを伺うように覗き込んできた。
あぁ、迷惑をかけてしまっただろうか。
感謝もできない、人として最低な人だと不快にさせてしまっただろうが。

「そっか。そんなに怖かったか」

ぽん、音にするならまさにこんな音。
おろおろと慌てふためく私の姿は、彼には怯えが抜け切らず怖がっているように写ったらしい。
大きくて、しっかりした手が優しく私の頭に置かれた。

「悪かったなぁ…逃がしてやれればよかったんだけどよ…。嫌なもん見せちまったな」

髪の毛を乱さなように気を使ってくれてるのか、撫でるのではなく軽く頭を叩くように数度。
驚いて顔を上げれば、困ったように笑う顔がそこにあって。

「(違う、違うんです)」

必死にそんな思いを込めながら首を振る。
確かに怖かったけれど、今はあなたに感謝の気持ちを伝えたいのに、それなのに。

「じゃあ、俺は行くけどよ。次は絡まれないように気をつけろよな」
「!!」

くるり、踵を返して彼は私の前から姿を消した。
ついぞ名前さえ告げることは無かった彼。
感謝の鱗片さえ伝えることはできなかった私。
もう二度と会えないであろう恩人に、感謝の言葉を伝えることができず、あまつさえ心配までかけてしまったそれだけがひたすら心残りで、心残りで。
唇を小さく噛みながら帰路についた私は、その数日後友人の家で彼と再開することになろうとは夢にも思っていなかった。










「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -