ふと、幸せだなぁ…と思った。
「何一人でニヤニヤしてるんですか、気持ち悪い」
小さな喫茶店の隅っこで、珈琲を片手に穏やかな午後を過ごす。
緩んだ口元をすみれに指摘されて、慌てて引き締めてみたけれど、やはり内面は隠しきれていないようで。
呆れたようにすみれはため息をついて、窓の向こうに視線を投げた。
つられるように見た窓の向こうにはたくさんの人。
慌ただしく駆けていくサラリーマンに楽しげに歩いていく女子高生、立ち止まって立ち話に興じる主婦がいたと思えば、その横をベビーカーを押した夫婦が幸せそうな過ぎていった。
「…いいな…」
ほうと息をついて視線を戻せば、いまだ外を見ているすみれの横顔がそこにある。
暖かな陽射しに包まれたその顔が、今はとても尊いものに思えて。
「…さっきから何なんですか。人の顔見てだらしない顔をしたと思えば、珈琲も飲まずにあっちこっちに視線を投げてばかりで。ホント何がしたいんですか、あなたは」
くるりと唐突にこちらを向いた瞳に驚き、何にも言い返せずにいれば再びため息をつき、彼はそっと目を伏せた。
長く整った睫毛が、そっと影を落とす。
その様子さえ愛しくて、また口角がふわりと緩んだ。
「いや…幸せだな、と思ってな」
「幸せって…何を言い出すかと思えば何をいきなり…」
「…呆れたか?」
「まったく…愚問ですよ」
かしゃん、カップをソーサーに戻し、すみれが顔をあげた。
柔らかな笑みを携えて。
その表情にもう一度笑みを返して、珈琲を口に含む。
時計は穏やかに時を刻んでいた。