ちぇんじ・ざ・壬生狼

如何なる場合においても、状況確認というのは大切なモノで…。
まず、なによりも優先すべき事柄である。

歴戦の勇士達は、その経験から…その大切さを理解していた。

なので普段から騒いでいる喧しい野郎どもであっても…今回ばかりは真剣な様子で、額に汗を浮かべながら広間で顔を合わせていた。

しかし、誰も口を開く事はできなかった。

その空気に耐えられなかったのか、全員の顔を見回した千鶴は、ついに口を開いた。

千鶴「とりあえず…話を一旦整理するぞ…?」

覚悟を決めたような彼女の低いの声に、藤堂は真剣な表情をしながら口を開いた。

藤堂「事の始まりはまず新選組の、主に試衛館の面々で流行性感冒の患者が流行ったことから…。
ほとんどの者が倒れ部屋で大人しくしていた中、大人しくしていなかったのは馬鹿で流感にかからなかった永倉君・原田君・藤堂君の3人のみ。

調子に乗って彼らが酒をかっくらい騒がしくしていた所、ついに沖田君が我慢できなくなり木刀で三段突きを放って一拍で全員大人しくさせた…ここまではよろしいでしょうか?」

斎藤「よろしくねぇよ!!あんなの殺人未遂じゃんか!!オレ死ぬかと思った…!」

彼の言葉に、斎藤は身を乗り出して講義する。
すると、低い低い沖田の声が響いた。

沖田「黙れ、流感にかかってる上でお前らの看病をした雪村と副長のが死ぬ思いだったはずだ」
千鶴「とりあえずその話は置いておいて構わねえから…話を続けてくれ」

千鶴は困ったような…呆れたような顔で、話を続けるよう促すと…藤堂が話を再開した。

藤堂「分かりました…それで屯所が大人しくなった所で、薬を飲んで皆が眠りについたのですが…翌朝目覚めたら身体が入れ替わっていた…という流れです」

山南「みたいだね」

人事のような山南の声に千鶴の頭の中で何かが派手な音をたてて切れた。

千鶴「みたいだねじゃねぇだろうが山南さん!!どうせあんたの薬だろ…!?あんたの出した蒼いインチキ変若水が原因だろう!!?

小さい身体でつっかかる千鶴を、山南は慌てて抑える。

山南「ちょ、僕は山南さんじゃ…
というかインチキ云々言い出したら土方さんは石田散薬というインチキの極みを僕達に飲ませたでしょう?しかも空きっ腹に

千鶴「あれを飲ませたのは俺じゃあねえ斎藤だ!

千鶴は斎藤をキッと鋭く…といっても、幼げの残る可愛らしい彼女の顔では対して怖くないのだか…睨みつける。

斎藤「いや、俺は一君じゃねえって!
というか、空きっ腹に熱燗の酒と石田散薬飲ませたのかよ!
俺達ならまだしも流感で寝込んでるみんなに!?」

斎藤は大袈裟に両手を動かしながらそう言うと、沖田が申し訳なさそうに口を開いた。

沖田「すまない…俺が山崎に頼んだのだが、新八・左之・平助の3人だけで良かったはずなのに俺の手違いで全員が飲んでいた

原田「どんな手違いが起きたらそんな風になるってんだよ…」

原田は苦笑いで沖田に突っ込むと彼は静かに片手を挙げる。

沖田「一同に騒ぐと余計に混乱を招く。故に、ここで一度誰が誰だかハッキリさせておくべきだ」
山南「そういう君は…一くんだね?僕の身体はどう?見える景色が高いでしょ?

後ろに黒いオーラを放ちながら睨む沖田を意に返すことなくヘラヘラと笑った山南さん

沖田「総司、今は誰が誰かを判別する時間だ。身長の件は後で後悔しろ
山南「ちょっと一くん、僕の顔でそんなに人相悪くしないでよ…怖いから。
ぎゃいぎゃいと沖田と山南が騒ぎ始めるのを、千鶴が一喝した。

千鶴「いい加減にしろテメェら!とにかく黙っていやがれ!!」
土方「おいおい、さっきから思ってたんだが…。千鶴の顔でその発言は止めたほうがいいんじゃ……土方さんなんだろ?」

土方が困ったように眉を下げて苦笑いすると、藤堂がくすりと微笑んだ。

藤堂「おやおや、やはり貴方は土方君でしたか。そんな可愛らしい姿になってしまって…ふふっ」
原田「…山南さんだな?その口調は。
なんだかよく分からねえが、平助の声でその口調だと無性に腹が立つ

原田がそう言って舌打ちをすると、斎藤はガバッと立ち上がる。普段の穏やかだが隙のない動きと違い、少々ガサツな動きである。

斎藤「それどう言う意味だよ左之さん!!」
土方「いや落ち着けよ。そいつは俺じゃねぇ…多分新八だ。違うか?」

土方が笑いながら招待を見破ると、原田はグッと拳を握り挙げる。

原田「おうよ!俺は永倉新八だ!
…その様子だと斎藤の中が平助で、土方さんの中が左之か!そうかそうか!」

バシバシと背中を叩く原田に「痛えよ」と笑いながら叩き返す土方。
土方が穏やかな笑みを称えていると…何か裏がありそうで怖い

千鶴「とりあえず、一旦整理するぞ?」


要するにこうである。

沖田の中に斎藤
斎藤の中に藤堂
藤堂の中に山南
山南の中に沖田
千鶴の中に土方
土方の中に原田
原田の中に永倉
永倉の中に…

斎藤「…ってオイまさか!」
山南「…そういえばさっきからずっと声が聞こえなかったんだけど…」

一同は恐る恐る振り向いた。
隅の方できちっと正座をして、困ったように俯いていた彼は…顔を上げる。

土方「…千鶴…なのか?」
永倉「…………………………………………はい」

土方の問いかけに、小さく震えながらこくっと頷いた永倉。

その場に居た全員が、事の重大さを痛感した瞬間だった。

斎藤「よりにもよって千鶴が新八っつぁんの中って…」
藤堂「これは早急に解決せねばなりませんね。雪村君だけでも」
山南「僕らの千鶴ちゃんが、新八さんの中なんて許せない

口々に言いたい事を言いまくっているので、最早ただの悪口大会になっている。

永倉「皆さん…永倉さんの事をそんな酷い言い方しないで下さい…。その中にいる私が惨めになって来ますから…
原田「千鶴ちゃんってさ…地味に言うよな…もう目の前が滲んで来たぜ…」

言いたい放題にイジメられ、目頭に涙を浮かべる原田。
そんな事はお構い無しに他の者は打開へと動き出すのであった…。



永倉「土方さん…本当に私の中に入ったのが永倉さんとか原田さんじゃなくて良かったです…真摯に!
土方「いやいや、俺は自分の体に手ぇ出したりなんかしねえよ。新八ならまだしも

土方は新八の肩を叩きながら笑う。
そんな様子を見た山南は壮大に吹き出した

山南「あっははははは!!しおらしい新八さんと、滅茶苦茶穏やかな土方さんとか気持ち悪い!あははははは!!」

お腹を抱えて、足をジタバタとさせながら笑う山南。見てる第3者は既に恐怖絵図だった。

近藤「なんだか妙な気分だなあ…」
山崎「…これは全て私の責任…なのでしょうか?私が斎藤さんの言葉を間違えなければ…」
千鶴「いや、お前が気に病む必要はねえよ山崎。どうやらこの入れ替わりの原因は山南さんが松本先生から貰ってきた蒼い変若水だ

千鶴が、眉間にシワを作りながらそう言うと…土方が近づいてくる。

土方「おいおい土方さん…千鶴の眉間にシワが残っちまうだろ?穏やかに行こうぜ」
千鶴「俺の顔で俺に迫るな気色悪ぃ!!離れやがれ!!」

眉間をぐぃと指で押してきた土方を、裏拳で追い返す千鶴。
しかし、土方自身も千鶴の額にシワを作りたくは無いのか…片手で眉間を抑えながら、軽く咳払いをした。

千鶴「山南さんによると、あの薬は一度だけ“まうす実験”とかいう鼠を使った実験で異常があったという報告があるらしい。しかし、何百回と実験を繰り返してただ一度だけだったそうだ」
土方「つまり俺らは鼠以下だったと…?

土方の言葉に他の面々の顔が引き攣るが、千鶴はその様子を見てフッと笑った。

千鶴「いいやそうじゃねえ。その実験で鼠に起きた異常ってのは“しょっく死”だそうだ」
永倉「ショック死!?」

永倉は甲高い声を上げる。そして、自分でも声の大きさに驚いたのか慌てて口を塞ぎ…今度はゆっくり口を開く。

永倉「えっと…父様から聞いたことがあります。薬や毒で身体が過剰に反応しすぎて、身体がついていかずそのまま死に至るとか…」

永倉が真剣な顔でそういうと、沖田はふむ…と顎に手を当てた。

沖田「となると…俺達は死ぬところだった。という事か?」
土方「おいおい、もし万が一それが原因としたら俺や平助、新八はどうなるんだ?薬は飲んでねえぞ?」

土方が身を乗り出すと、すっと襖が開き藤堂が部屋に入ってきた。

藤堂「ただ今戻りました…松本先生から話を聞いて来ましたよ」

穏やかな笑顔でそう言うと、その場の全員が注目する。

藤堂「まず始めに、皆さんは幽体離脱という現象をご存知ですか?」

藤堂の問いかけに、斎藤は手を上げて答えた。

斎藤「あ、オレ聞いた事ある!なんでも、体から魂が抜けるって話だよな!」

そう元気良く答えた斎藤に、藤堂はゆっくりと頷いた。

藤堂「それがあの薬を飲んで、ごくごく稀に起こる症状だそうです。普通はそのまま死ぬという話なのですが…我々の生命力が異常に強かったのか運が良かったのか。
奇跡的に肉体に戻ってこれたというわけです。場所を間違えたようですが

一連の話を聞いていた斎藤と土方は、恐る恐る…口を開いた。

斎藤「…となると?オレや新八っつぁんや左之さんは…」
土方「総司の剣で魂が飛び出ちまう程やられたってわけか?」

藤堂「そう言う事になりますね」

穏やかぁでにこやかぁな藤堂の笑みで、土方と斎藤は震え上がる。

土方「おぉい総司!どんだけ俺らのこと殺りに来たんだよ!?

土方に両肩を掴んで揺すられた山南は、キッと眼光が鋭くなった。

その本気の睨みに下手に刺激しない方が良いと経験上悟った土方は、とりあえず彼の肩から手を放すと…山南はズレた襟を直す。

山南「だってさぁ…原作の労咳が無かった事になる話の中で流感にかかるなんて笑えないじゃない。
また布団の中で寝込むなんて…って時に、三人がよりにもよってお酒の席に誘ってくるんだもん

土方「誘ったのは酔った新八で、俺と平助は関係ないだろうが!!」
山南「共犯ですよ共犯。まず人が具合い悪いのに皆で酒飲む時点で共犯ですから」

山南は片手をヒラヒラと動かしながら適当に流す。
新八の不祥事は原田と藤堂の不祥事という5人組さながらの連帯責任は今に始まった事ではない。
2人が諦めて座り込むと、原田が廊下を歩いて来た。
その様子を真っ先に捉えた沖田と近藤と山崎は声をかける

沖田「噂をすれば影…か」
近藤「原田く…いや、今は誰だったか?」
山崎「永倉さんのはずです近藤さん。会議にも参加せず、何処へ行くのです?」

声をかけられた原田は「おう!」と元気良く返事をする。

原田「ちょっと出かけて来ようかと思ってな!んじゃ、また後でな!」
山崎「この非常時に呑気ですね

山崎は呆れたように突っ込むと、言葉に反応した土方が山崎を後ろへ追いやって原田の肩を掴む。

土方「おい新八…俺の身体で一体何処へ行こうってんだ…?」
原田「あぁ?そりゃお前…この身体で行く所と言ったら島原に決まってんだろ?

得意げに言う新八の声に沖田は「やはり…か」と呟いた。
颯爽とその場を去る原田に、土方はもちろん慌てた。

土方「ふざけんな!俺の身体でハメ外すんじゃ…おい待て!!待て新八!!」

原田を追いかけようとした土方の手を、山崎が掴んだ。

山崎「副長!…の中の原田さん!何処へ行くつもりですか!これ以上会議の人数を減らさせませんよ!永倉さんなんて放っておいて下さい!
土方「おける訳ねぇだろ!!!?俺の身体なんだよ!新八の事だ何やらかすか分かんねぇ!!」

千鶴「てめぇ俺の身体で何してやがる!」

山崎に羽交い締めにされ暴れる土方を見た千鶴は、持ってきた茶を永倉に預け…一発殴って黙らせる。

土方「…千鶴に殴られるのは…気分的にはそんなに悪い気はしないんだが…

曲がりなりにも純血の鬼である千鶴の、土方自込みの拳である。
気分的には良くても肉体的には相当効いたらしい。

近藤「なんというか、トシが雪村君に殴られるなどという光景は…こう…かかあ天下で尻に敷かれてる夫婦のように見えるな」

近藤がうむうむと楽しそうに頷くのを、永倉がうっすら頬を染めながら顔を伏せる。

永倉「夫婦…ですか…」
藤堂「嬉しそうですね雪村君。第三者目線だというのに…

藤堂が永倉の耳にだけ聞こえるように呟いた。
そんな中、土方に状況を説明された千鶴はため息をついた。

千鶴「呑気過ぎて羨ましい限りだなまあ、飽きるまで放っておけば帰ってくるだろう」
土方「あんた他人事だと思ってるな…?」

恨めしげに千鶴を見上げる土方に、沖田はこめかみを抑える。

沖田「大体新八はなぜ自分が女子の気を惹けないのかを理解していないのだろう」
山南「そうそう、新八さんがモテない原因は顔じゃなくて性格なわけで」
斎藤「こりゃしばらくしたら島原から聞こえて来そうだな…左之さんの悪評が

皆がうわぁと顔をしかめ…土方の顔が絶望に染まる。

山崎「しかし、新選組の柱である皆さんがこの調子だと…敵が攻めて来た時どうしましょう」
山南「僕の予想だと敵も混乱に巻き込まれて大迷惑になると思うな」
斎藤「確かにもう迷惑の域だよな…敵が

それに、混乱でこの入れ替わり事件が隊内に露見すればそれはそれでまた厄介である。

土方「そうだな…立て札でも建てて置くか?『危険!侵入禁止!』とか」
近藤「いや…攻めてくる人間にそんな事をしても意味が無かろう。むしろ『新選組・只今不在』の方が親切ではないか?」
千鶴「どういう親切だよそれは…」

千鶴は呆れ果てたような声を出すが、藤堂は“悪くない”と口を挟んだ。

藤堂「侵入者に気づけない程、私達も落ちぶれてはいないでしょう。油断してきて侵入してきた浪士をそのまま闇討ちにでもしてしまえばいいのです」

さらりと恐ろしい事を吐く藤堂だったが、斎藤も同意する。

斎藤「オレも良いと思う。きっと新選組が不在だって分かったら…鬼もとりあえずはその場を去ると思うしさ。その後血眼になって探し出そうとするかもだけど

一時的な引き延ばしにしかならないが、行動に移さないよりマシという事で皆立ち上がるのだった……




さて、新選組がそんな事になってる同時刻…鬼達が皆で顔を合わせる不思議な光景が展開されていた。

不知火「おーおー、勢揃いじゃねぇか」

風間とお千が互いに火花を散らし合うその状況を不知火は他人事のように言葉にする。

お千「なんで貴方達がここに居るのかしら?」
風間「ふん。我が嫁が病と聞いて駆けつけたまでだ。新選組などという不潔極まりない所に居ては、病状が悪化すると言うもの…」

不知火「とどのつまり、女鬼が流感って聞いていてもたっても居られなかったんだよなぁ?風間は」

不知火が風間を茶化すと、風間の鋭い眼光が彼を襲う。
しかし、付き合いが長い彼の視線には慣れている不知火。その反応ですら愉快そうに笑う。

天霧「そういう貴女方は…何故新選組に?」
君菊「理由はそちらと同じです。姫様が大層千鶴様を心配しておられ…」

風間達は多少物騒だったが…無駄な闘いを嫌う天霧はとりあえず理由を伺う事にした。
それを悟った君菊は、正直に理由を話す。

「風間!?」

そんな時、可愛らしくも荒い口調の声が響き渡った。

千鶴「テメェら…よりにもよってこんな時に来るたぁ…不運だな
天霧「どちら様でしょうか」

あまりにも普段の千鶴と違う様子に、固まる鬼らの気持ちを代弁して天霧が言った。

わたわたと忙しない斎藤の横で、千鶴は面倒くさそうに眉を潜めながら腕をくみ、そっぽを向いた。

千鶴「……説明してやるから、とりあえず上がれ」
斎藤「おいおい、入れちゃっていいのかよ!?看板は!?

千鶴「このまま放って置いたら余計にややこしくなるだろうが!見れば、まともな鬼さんもいるみてぇだしな。看板は捨て置け。もう必要ねぇだろ」

千鶴はちらりとお千達を見、踵を返して屯所へ入っていく。
腑に落ちない要するの斎藤も鬼たちを引連れて屯所へと入るのだった。

永倉「お千ちゃん!?……と風間さん!?」

その光景を目の当たりした永倉は、軽く仰け反るように驚いた。

土方「おいおい平助!こりゃ一体…」
斎藤「仕方ないだろ?土方さんが入れろって言うんだもん」

腰に手を当て、ため息をついた斎藤はとりあえず鬼たちに事情を話すことにした。

そして一通り話を聞いた風間は優雅に立ち上がる。

風間「天霧、不知火。女鬼を連れて帰るぞ
千鶴・不知火「「はぁ!?」」

2人はほぼ同時に叫んだ。

風間「何を驚く事がある。俺は元々鬼の血が狙いだったのだ。多少複雑ではあるが血さえ流れていれば問題はない
お千「ちょっ風間…あなたね…」
風間「それに…」

風間はそっと千鶴に近づき、軽く頬に触れると…小さい少女はびくっと肩を震わせる。

千鶴「な、なにしやがんだてめぇ…」

睨みながらも、感じた事の無い恐怖から千鶴は少し後ろに逃げる。
その様子を見た風間はフッと笑う。

風間「こういう不器用そう千鶴も悪くない
不知火「見境なしかよ!?

不知火は思いっきり風間に突っ込むが、その表情から本気だと悟り…大きくため息をつく。

不知火「悪いな、ああなったら風間は止まんねぇんだ」

そういいながらヒョイと千鶴を小脇に抱えると…

永倉「待って下さい不知火さん!!そのまま私の身体と土方さんを持っていくと言うのなら……私にも考えがあります!!」

そういいながら永倉は素早く不知火の両肩をがっしりと掴んだ。

不知火「考え…?何するってんだ?」

そういいながら不知火は不敵に笑った…が、その余裕そうな表情は次の一言で完全に消えた。

永倉「このまま接吻します

不知火は冷や汗というより脂汗を額に滲ませながら露骨にうろたえた。
風間や天霧も目を見開いている。

不知火「お、おい待て…落ち着つけ!!」
永倉「別に私は嫌ではありません。なんせ不知火さんはお顔立ちも良いですしね!」

涙目になりながら訴えかける永倉。その様子を見て…不知火があまりにも不憫だったのか山南と斎藤が止めに入った。

山南「まぁまぁ千鶴ちゃん、落ち着きなよ」
斎藤「そうだぜ千鶴。大体そんな事したら新八っつあんに怒られるぜ?」

何とか穏便に済ませようとする2人を横目に、藤堂と沖田に土方は…

沖田「やれ雪村。副長を取り戻してくれ」
藤堂「たまには貴方がた鬼にも痛い目を見てもらいたいですしね…」

土方「新八だって俺の身体で好き勝手やってんだ。文句は言わせねぇよ

土方はそういいながら逃げられないよう不知火の背中を掴んだ。

不知火「おい原田てめぇ!?」
土方「頑張れ千鶴」

原田の優しさに土方の声が相乗して、遂に永倉は覚悟を決め…不知火に近づく。

不知火「待て待て待て!なぁ待てって!?お願い待って下さい!!
お千「本物の鬼ね…」

お千は怯えたようにそう呟いた。
不知火は、もう逃げ道はないと…千鶴を離した。

不知火「あぁ!!もう!返す!返すから離れろ!!!」

不知火は渾身の力を込めて永倉を引き離し土方を押し飛ばすと、素早く後ろに逃げる。

永倉「土方さん!大丈夫ですか!?」
千鶴「あぁ、問題ない」

永倉は慌てて土方に駆け寄ると、不知火をきっと睨む。
周りの雰囲気はどんどん悪くなっていくこの状況に、天霧と君菊が止めに入った。

天霧「とりあえず、元に戻る方法を探しませんか?」
君菊「そうですね。ここで争っていてもどうにもなりませんし」

2人の言葉に、その場にいた人間は一度座る。不知火も天霧の後ろに静かに座り込んだ。

風間「ふん。勝手にやっていろ。俺は別に今の女鬼で構わんがな

風間はそう言い残し、風と共に消えた。
その様子に千鶴がぶるっと震える。

千鶴「気色悪ぃ言い残ししやがってあの野郎…」
山南「まぁまぁ土方さん。とりあえず元に戻る方法考えましょうよ!
じゃあとりあえず言い出しっぺの僕から…始めらやり直すってのはどう?」

山南は無邪気にそう言うと、沖田は少し考え…口を開いた。

沖田「最初…というのはいつからだ?」
山南「石田散薬を飲んで、あの蒼い変若水を飲んで寝るんだよ」
斎藤「でもよ?それって今回が奇跡的に身体に戻れたわけで…次は死ぬかもしれないんだよな?そんな危ない橋は嫌だよ…俺らは被害者だっていうのに

山南「平助達は僕が叩き出してあげてもいいんだよ…?

山南は悪鬼のような表情で斎藤を睨むが、それを土方が止めた。

土方「三段突きは勘弁してくれ。といっても…あの変若水は幽体離脱それ自体が成立しにくいんだろう?」

むぅ…と一同に悩んでいると、割と真剣な表情で不知火が口を開いた。

不知火「…え、昏倒させれば魂でるなら…俺らが一発殴ってやればいいんじゃねえの?」
鬼側「「「あ」」」

原田「あ、じゃねぇよ。あんたらの一発なんてまともに喰らったら本当にくたばっちまうだろう」

土方「新八ぃぃい!!!!」

原田の存在に素早く気がついた土方は狼が噛み付くかの如く飛びかかる。

原田「うぉあ左之!?…ちょ待て待て!これお前の身体だぞ!?」
土方「知るか!!一回腹切って死に損なった身体だしな!

一時の感情で腹を切れるほどの無謀さ…もとい豪気さを持ち合わせている原田左之助。

このままでは抜刀しかねないと周りは慌てた…ために千鶴が一括した。

千鶴「いい加減にしやがれ!!!こんな時まで喧嘩されちゃたまんねぇよ!」

千鶴に怒られたため、舌打ちをして2人はいがみ合いを止めた。

山南「とりあえず…元に戻る方法考えないとですね」
原田「あぁ、その事なんだが…」

原田は懐からゴトリと鈍い金属音をたてながら巾着を出す。

原田「なんか風間の野郎が、ニヤニヤしながらこれを寄越して消えてったぜ」

そういいながら、原田は千鶴に巾着を渡した。
千鶴はちらりと天霧の方を見ると、天霧は「それは正しく風間様の物です」と言った。

土方「開けたら爆発とか洒落になんねぇもんじゃねえよな…」
お千「ちょ、止めてくださいよ…変に緊張するじゃないですか…」

土方が真剣な顔で言うと、お千は少し怯えた顔をし君菊に引っ付く。
他の皆も土方と袋を交互に見るようにすると、沖田が口を開く。

沖田「流石に…雪村の身体や他の鬼たちが居るのに爆弾を持ち込むような真似は…」

しないだろう。

千鶴もそう思ったのか、ゆっくりと頷き巾着を開いた。




瞬間、屯所の一角で爆発が起きた

その様子を、既に風のような早さで屯所から出ていた鬼達は遠くから眺めていた。

「…ふぅ、危ねえなぁ風間の野郎」
「まぁ、我々が気付かないとは思っていないのでしょう」
「ちょっと天霧、不知火!これどういう事!?」

不知火に抱えられているお千は不知火から離れるように飛び降りながら言った。

「あ?何がだよ
「この爆発に決まってるじゃない!!」

お千は不知火に突っかかるように叫ぶ。
土方の中にいる原田の予想は的中し、本当に巾着が爆発したのだ。

天霧は抱えていた君菊を下ろしながら丁寧に応対する。

「まぁ、簡単に言えば癇癪玉のようなものですね」
「癇癪玉というか…もう火薬爆弾よねあれは!」

お千は心配そうに屯所を見つめる。不知火はその様子を見て笑顔のような顔になった。

「次は戻る身体間違えんじゃねぇぞ」

不知火はそう言い残し消える。天霧もそれを追いかけるように一礼して草木に紛れるように消えた。

一方屯所では…

「トシ!総司…皆!」
「一体どうしたというのです!?」

近藤と山崎が瓦礫をかき分けながら、叫ぶと一箇所の瓦礫が動いた。

「痛た…」

ひょっこりと顔を出したのは、千鶴だった。
鬼と言うこともあり、すぐ復活して怪我1つない。

「副長!」
「トシ!大丈夫か!?」
「…トシ…?私は雪村ですけど…ってあれ?元に戻ってる!?」

千鶴は自分の掌や腕、体を見回して喜ぶ。
そして一段落着くと…周りの様子に驚愕した。

「これは…!」
「ほかの皆も埋まっているんだ。雪村君…すまないが手伝って欲くれるか?」
「はい!急ぎましょう」

千鶴は山崎と近藤の3人で急いで瓦礫を上げると、1人また1人と生還する。

その様子を、少し離れた場所で隠れながら見つめる一つの影。

「全く…頑丈な奴らだ…。2・3人なら殺れると思ったのだがな」

その男は、イタズラに成功した子供のように…たいそう満足気にその場を離れる。

「あいつ、端から潰す気は無かったよな」
「ちょっとした余興のおつもりだったのでしょうね」
洒落になんねぇなぁオイ…」

二人の鬼は、楽しそうに彼…風間の背中を見つめていた。



--------------------


あとがき

いや、本当にごめんなさい…。
というか、久々に台本書きなんてしたから書きにくいことなんの…

それとお千ちゃんと君菊さんの性格が未だに掴めていない。大好きなのに…

お目汚し失礼しました。

2016.10.05

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