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ガラケーの語源についての考察

 ガラケー。

 今をときめくスマートフォン、通称スマホに対し、目下人気低迷中、数年後には絶滅するのではないかとまことしやかに囁かれる、2つ折りのパカパカ出来る携帯電話の俗称である。

 2007年から徐々に徐々にスマホに居場所を奪われてきたガラケー。ガラケーも必死に頑張っているが、悲しいかな時流には逆らえない。最近では、漫画もドラマも映画でも、キャストの通信手段として描かれるのはガラケーではなくスマホである。紙面や液晶越しでもスマホの一般普及率を見せ付けられているのだから、ガラケーも歯痒い思いをしているだろう。ハンカチを噛み締めキィッと悔しがるその姿が目に浮かぶ。ついでに地デジ化に伴い『ブラウン管越し』という表現を封印するしかなかったテレビがその肩を叩いている様子まで浮かんできた。

「オレァまだまだいけるんだ。それがどうだ、世間の皆はコロッとあのすかしたスマホ野郎に入れ揚げちまって。アイツらはなぁ、充電は短いし液晶は割れるし犯罪に巻き込まれるし、悪いところを挙げりゃぁキリがねぇんだ。それなのによぉ」
「ウンウン分かる。分かるよキミ。私もねぇ、箱型のどっしりとしたフォルムが魅力だったのさ。それが今ややれ薄型だのやれ小型だの、テレビの良さを自ら削っているとしか思えないね。『液晶云々』より『ブラウン管云々』の方がどう考えたってレトロで重厚な趣があるのにねぇ。その内きっと、お茶の間人気のお魚くわえたどら猫追っかける陽気な奥さんの家のテレビも薄型になるんだ。誰が見たいって言うんだい、そんなサ○エさん一家」


 閑話休題。


 さて本題に戻ろう。
 テレビも参入して横道に逸れた無駄話のせいで本日の主題を忘れてしまったご仁は、目線を上げるかスクロールバーを上に動かし今一度タイトルをご覧くださるよう願いたい。

『ガラケーの語源についての考察』

 それ以上でもそれ以下でもないこの考察。
 では早速、世間一般で言われる語源について記述しよう。

 ガラケーの名前の由来。それは即ち、ガラパゴス諸島である。
 そもそもガラケーはガラパゴス携帯の略であり、このガラパゴス諸島、また、そこから派生したガラパゴス化という言葉が鍵である。
 ガラパゴス諸島(Galapagosu Islands)は、大西洋上にあるエクアドル領の島群だ。隔離された自然環境の結果、ゾウガメやガラパゴスペンギンなどの、島固有の動物が生まれた。
 また、そこから派生して、特定の地域で独自の進化を遂げる事を、ガラパゴス化と言う。
 今日使われるガラケーという単語は、正にこのガラパゴス化を指し、多種多様で様々な機能を搭載した日本の携帯電話を、海外携帯との違いや通信システムの違いを揶揄する意を込めて名付けられたのである。
 ガラケーという言葉が世間に広まり、ごく普通に固有名詞化している現在ではあまり関係ないが、元々は、少しの悪意から呼称されたのかもしれない。しかしそれでも表面的に見れば、ガラケーの根本的な由来は、

“日本で独自の進化を遂げたもの”

という域を出ず、多少の皮肉が含まれているものの、面白みも何もない、単純事実を名詞化しただけなのである。


 では次に、それを踏まえた上での私の持論を述べよう。

 ガラケー→ガラパゴス諸島。この構図は納得出来る。と言うか、これは大前提である。
 私が思うに、それ以降の論理展開が、上記のような単純なものではなく、もっと複雑で興味深いものなのではないだろうか。

 前述した様に、ガラパゴス諸島には島固有の動物が数多くいる。
 これはつまり“閉鎖的環境に於いて、独自の進化を遂げた”という事である。だがしかし、それは言い換えれば、“島固有の動物は、島外の進化から取り残された”とも言えるのではないだろうか。

 ガラパゴス諸島の動物たちは、その特異な進化によって、世界自然遺産にも登録されている。しかし、やや意地の悪い見方をすれば、それは島の動物たちが、周りの進化から取り残された故に起こった、偶然の副産物であるとも言えよう。

 ――そう、ガラパゴスの生き物は、“周りの進化”から“取り残された”のである!

 これを現在のガラケーに当てはめると、何とも皮肉な名称ではなかろうか!
 実際、高性能高機能を追い求めて独自に進化してきた日本のガラケーは、海外では全く相手にされない。その理由は一概に「(そんなに機能あっても)無駄」であり、高い技術力を自負する日本人の成果を、「いらない」の一言で切り捨てたのである。海外市場で上位を占めるのは、“安価”で“使いやすく”“分かりやすい”携帯電話なのである。皮肉にも日本のガラケーは、独自の進化を遂げた結果、世界から取り残されているわけだ。

 進化するタブレット端末やSNS、急速に普及するスマートフォンの中、取り残されたガラケー。
 ガラパゴス諸島の動物の様に、今後更に新たな進化を見せるのか、それとも滅びてしまうのか。

 “取り残された”ガラパゴス諸島が語源だからか、その俗称はガラケーの未来をも暗示しているようだ。


 今後、ガラケーはどんな道を辿るのか。



 ――私と一緒に、一生を懸けて、その行く末を見守ってはくれないか?






***


「いくら携帯会社に勤めてるからって、あのプロポーズはないんじゃない?」
「そんな私のプロポーズを受け入れたのは君じゃないか」
「最初はお断りしたじゃない。『ごめんなさい。わたしスマホ派なの』って」
「……」
「でもあなたは、“取り残された”男にならなくて良かったわね、旦那さま」
「私も、君を取り残すことがなくて良かったよ、奥さん」


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