短編 | ナノ





「――だから猫が喋る事は別に」

 友人の猫について語れば、セーラー服を着たままの妹はぽかんと口を開けた。遅れて猫の口も開き、猫は飼い主に似るなあと再び思う。
 厳密に言えば私も飼い主の一員なのだが、猫を拾ってきたのも一番世話をしているのも、妹だからか猫は私には似ていない。そういえば、猫の名前を決める時、「メルポンがいい!」と主張したのも妹だった。私はタマが良かったのだが。
 そして似た者同士はお互いちらりと視線を交わし、何やらこそこそ話している。漏れ聞こえる会話の節々に「ダークナイト」やら「敵」やら「まさか大学生」やら「フラワーランド」やら気になる単語が覗く。しかし断片過ぎてさっぱり話が掴めない。

 こくり、と、お互い頷いて意志確認した妹と猫は、揃って私を振り返る。緊張した面持ちだ。目は決意で溢れている。
 ふと、話す猫って行動が人間くさいなと、そんな事に気が付く。猫である事と語尾が「ぽよ」である事を除けば、うちの猫は完全に人間だ。そうそう、妹の彼氏はうちの猫みたいに綺麗な艶のある黒髪だった。たぶん猫が人間だったらあんな感じだろう。あそこまでイケメンになるとは思えないが。

 そうこう考えていると、妹はキュッと唇を噛み締め、もう一度開いて言った。

「お姉ちゃん……、私が、お姉ちゃんを助ける……!」

 何やら大層な決意表明をされてしまった。妹の瞳は涙で潤み、話の前後がはっきりすれば、感動的なシーンだろうなと思わせる。しかしこの場合は脈絡も何もあったものじゃないためさっぱりだ。

 そのまますくっと立ち上がり、猫を引き連れどこかへ行こうとする妹の腕を取れば、バランスを崩して転びかける。けれどすぐさま体勢を立て直して振り向く妹に、この子いつからこんなに運動神経良くなったのかしらと新たに疑問を生じながら、今日一日頭をついて回った言葉を口にした。


「だから何で「ぽよ」?」


 「キャラ設定!」と答えて腕を振り払い、猫と一緒にリビングを飛び出した妹が、「フラワーパワー! チェンジアップ!」と高らかに叫ぶのを、あの子どうしちゃったんだろうと、リビングのソファに沈みながら聞いていた。


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bkm

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