短編 | ナノ



おまけ

 子供は可愛い。
 今じゃ私より背が高くなって、憎まれ口ばかりたたく可愛さの欠片もない弟も、何だかやたらハイスペックで、生まれてこの方彼氏が出来たことのない私に当て付けるようにコロコロ彼女が変わる年下の従兄弟も、小さい時は本当に可愛かった。
 『ねーね、だっこー!』とふっくらした赤いほっぺたを緩ませて私に向かって手を伸ばし、だっこだっこと強請る従兄弟に、『ねーちゃんは、おれのなのっ!』とぷんぷん怒ってぎゅーっと抱き付いてきた弟。天使の従兄弟もヤキモチを妬く弟もめちゃくちゃ可愛かった。もうほんと可愛かった。記憶が美化されてるわけじゃなくて、ホームビデオにも残ってるんだから、決して私の妄想ではない。
 二人の可愛さは殺人級だ。画質の悪い当時のビデオカメラで撮影された映像でも、十二分にそれは伝わった。撮り手のクオリティの高さが窺える。難をつけるなら、つい顔が綻ぶ愛らしい二人と一緒に、ニヤニヤとだらしなく表情を崩してぐへへと笑う変態(なんて顔してるの小2の私)の姿まで映っている事だけど、それはまぁ、置いといて。

「あぁん。もうヤバイ可愛過ぎるこの子たち!」
「止めろ変態」

 何枚もDVDに焼き付け、デッキを一台お釈迦にしてしまう程観まくった宝物(ビデオ)。そこに映る天使たちに感情が昂ぶり、がばりとテレビを抱き締め画面に頬づりする私を、可愛くない弟が冷えた目で見る。

「姉貴、ほんとヤバイぜ。身内から見てもかなり末期だから。末期どころか終わってるから。変態が需要あんのは二次元だけなの。分かってる?」
「お姉ちゃんだって普段はちゃんと堪えてますー。道端でうるうるおめめの指しゃぶってる小さい子見付けても悶えるだけで抱き付きませんからー」
「うわ……」

 「おま、ないわー」と目で語る弟にイラっとする。こっちからすれば、母子相姦もののエロ本読んでる弟の方が「ないわー」なんだけど。
 あの頃のプリティブラザーがこんなのに育つとは想像もしてなかったわ……と残念なものを見る目を弟にくれてやれば、それに気付いてむ、と顔を顰めた弟は、「だいたい、」と前置き、一度口を閉じる。
 それに、ふと、嫌な予感を感じて静止の言葉を掛けようとするが、間に合わない。
 そして案の定、弟は、今の私にとって最大のタブーを、あっさり口にした。

「子供が好きで好きで好きで好き過ぎて小学校の先生になったんだろ? 俺じゃなくて生徒に萌えろよ」

 げんなりした。
 多分酷いことになってるんだろう、私の表情にギョッとした弟は、「え、俺マズいこと言った!?」と慌てる。半眼になってその様を見つめ、テレビから身体を離して弟に近付けば、弟はびくりと身を震わせ一歩後退した。失礼な反応だ。
 据わった目を弟に向け、ゆっくりと口を開き――、

「……聞いてよ。聞いてよ! 今時の小学生めっちゃ怖い!!」

 「は?」と呟く弟の前に崩れ落ち、私は担任を務める二年二組の生徒の顔を順々に思い浮かべながら、重い口を開いた。


***


 そして本編に繋がる。


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