彼らの恋愛事情 | ナノ



男性視点*佐川拓真の場合

「お前それ犯罪。分かってる?分かってるよな?」
「何を言っている。最終的に雪乃が俺を愛せばいい。そうなれば過程なんか気にする価値もないだろう」
「うわ、おま…」

 涼しい顔でコーヒーを啜る友人に、掛ける言葉が見付からない。
 世間一般で使われる、「可哀想で、」「同情して、」というニュアンスは、欠片も含まないのだが。
 心情を一言で表せば、正に「絶句」。二の句が告げないとはこの事だろう。

 手当たり次第女を食い物にしていた友人が、一途に1人を追い求めた。しかしその女性は18歳。オイこらアラサー。ロリコンかよ危ねぇよ。前半部分には安堵を、後半部分には微妙な気持ちを抱いていたが、友人の初恋を祝う気持ちが大きかった故に、積極的な応援はしないものの、温かく見守る体勢をとっていた過去の自分。そんな自分を殴りたい。まさか犯罪に走っていたとは全く思いもしなかった。今しがた語られた話は、際限なく引いた上に友人辞めていいレベルだ。いやガチで引いたわ。ねぇよお前。

「昨日籍を入れた」
「そうか…。御愁傷様…」
「馬鹿め。日本語もまともに使えないのか。こんなのが営業のトップとは、うちの会社も先が見えたな」

 いや、オレの感想は間違ってないはずだ。少なくともお前の彼女…もとい、奥さんにとっては。

 しかしこの犯罪者に正直に告げれば、オレ、ひいてはその“奥さん”にも被害がいきかねない。これでも営業トップ。空気を読むスキルには定評がある出来る男、それがオレ。

 友人の隣に腰をおろし、オレの言葉に激しく首を縦に振って同意を示す“奥さん”に、憐れみを抱きつつも、友人の所行を警察に通報しようと思わないのは、奇しくも友人の言う通り、過程はどうあれ今目の前にいる“奥さん”は、それなりに友人を愛していて、合意の上で夫婦になったのだろうと、第三者のオレからでも、見て取れるからだろう。

 話を聞く限り、友人は只のヤンデレロリコンストーカー性犯罪者だが、どうやって結婚までこぎつけたのか。奥さんが諦めたかほだされたかの二択だろうとオレは思う。そして間違ってないはずだ。オレが彼女にプロポーズする時は、なし崩しじゃなくて、しっかりお互いの意志を尊重しよう。いやでも彼女可愛いしな。断られたら立ち直れないなオレ。……あ。

「…っと、本題はそれじゃねぇ。ほら、これ」
「おい待て佐川。どうしてお前が俺の携帯を持っている」
「オレの彼女が昨日拾ったんだよ。つーかお前が『黙れ、失せろ』っつった女が俺のカワイー彼女だよ。話聞きながら何度か殴りたくなったからな。つか殴らせろや」

 愚痴や悪口を滅多に言わない彼女から、珍しく「有り得ない有り得ない何あいつムカつくぅううう」と電話が掛かってきた時には何事かと思った。その後「雰囲気イケメンじゃなくて本物のイケメンで腰の位置からして日本人離れしててでもなんか慌ててたから眼光鋭くて怖かったけど頑張って勇気出して『落としましたよ』って言ったのにそれをあの男はぁあああ!あんなんより拓くんのが断然格好いい。会いたいよ拓くん今から家行っていい?」って言われたからむしろオレが会いに行って抱き締めたけどね。そこで見た見慣れた携帯にうわぁって思って一発殴るついでに携帯返しにきたんだけど、惚気と言うには流しがたい衝撃事実を耳にするってどうよ。そんな心の準備出来てなかったわ。

 とりあえず、ベタベタと自分を触る夫に、顔を顰める奥さんの前途を祈りつつ、「何で殴られなきゃならないんだ」とかほざく友人を、殴り倒そうと思う。


 一発で許してやるかボケェ。



prev next

bkm

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -