彼らの恋愛事情 | ナノ



目撃者Aによる独白

「修羅場だわー」

 待ち合わせスポットとして人気の噴水前。土曜の昼時という事もあり、広場はたくさんの人が行き交っている。かくいうわたしも友人と待ち合わせるためにここにいるわけだが。

「修羅場だわー」

 一分ほど前、青ざめた顔の今風女子が、広場の中を人混みを縫うように走っていった。それからすぐに、スーツ姿の美形が現れて、誰かを捜すように必死の形相で人を掻き分けていた。そしてたった今、連絡先を迫っているのだろうか、派手な容姿の巻き毛美女が、美形スーツの男に携帯電話を差し出した。次の瞬間「黙れ、失せろ」と男は言い捨てて、美女に目もくれず誰かを捜すように走って行く。

「修羅場だわー」

 羞恥にか怒りにか、美女が顔を真っ赤に染めるのを見ながら、三度目の呟きとともにツイッターにも呟いた。


***

 美女が姿を消して数分後、満面の笑みで友人が駆け寄ってきた。肩で息をしながら友人は何事か興奮気味に繰り返す。しかしさっぱり要領を得ない。

「どうどう落ち着け」

 宥めて未開封のペットボトルを渡せば、腰に手を当て上を向く。友人はここが外だと分かっているのだろうか。お風呂上がりの一杯みたいな飲み方が、彼氏と長続きしない原因ではないのだろうか。

 そんな事を考えている間に、いきなり三分の二を消費した友人は、プハッと豪快にボトルから口を離し、さっきよりは落ち着いた、しかし興奮冷めやらぬ状態で言葉を続けた。

「ちょ、あたしさっき修羅場見た! 修羅場見ちゃった! スーツ来た真面目そーなイケメンが綺麗な女の人と話してた時に可愛い女の子が来て、がっつり二人を見てから方向転換して逃げてったの! しかも! その後イケメンは綺麗な女の人放置で女の子追ってったんだよ! ヤバくない!? リアルに修羅場だったわぁ」
「ちょっとそれ詳しく」

 どうやら世の中は、ドラマや映画で使い古された定番の修羅場に溢れているようだ。


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