宮廷書記官の復讐記録 | ナノ



【被害多発救済求む】+α


 何とも残念な事に、オズワルト様の生温い嫌がらせは、メンタル以外の点でも私に多大な被害を与えていた。

 木簡五十束、竹簡十六束、羊皮紙百枚綴り、硯、筆、書物、額縁、簾、書記官二名。

 オズワルト様の嫌がらせにより消失した、記録庫の備品である。
 中には物と呼称して良いか少々迷うものも含まれていたが、上記の二名は何の仕事もしていなかったため、記録庫の置物扱いだったし別に構わないだろう。
 消えた二人よりも、物品の方が重要だ。
 硯や筆は、まだ数があるから良しとしよう。簾も風通しと見通しが良くなったなぁで済む。しかし、問題は木簡竹簡羊皮紙だ。古代からの記録が書かれた、希少価値の非常に高い、貴重で大切な重要古書である。据げ替え可能な王と違って替えはないのだ。どこぞの王族より遥かに価値のある書簡が消失したというのは、並々ならぬ事件である。

 オズワルト様の怒りの鉄槌、つまりは宮殿発火や放火や火攻めなどの、ややパワーアップした嫌がらせに巻き込まれ、消失ならぬ焼失してしまった書簡の再生に、連日徹夜でかかりきりなのである。誤字脱字を発見しても、頑張ってたんだね偉い偉いと、優しくスルーして欲しい。

 書簡の再生と言っても、無くなった物が甦るはずがないので、一から復元しているのだ。
 記録庫にある記録は、全て私の頭の中に入っている。頭から引き出し、全て書き直すのには、それはもう、膨大な時間がかかる。連日徹夜で一睡もせず書いているのに、全く終わりが見えないくらい。涙が零れそうだ。同僚に、「女捨ててるぞ」とガチトーンで呟かれたくらい酷い有様なんた。別に泣いたっていいじゃないか。更に徹夜が続いたところで、これ以上酷くならないだろってところまできてるんだから。

 普通の書簡もさることながら、特に竹簡に書かれている物は、古語を使用していた時代のため、余計に時間が掛かる。
 目を血走らせ、髪を振り乱し、「うわ、おま…」という顔で私を見た後必ず金ダライの餌食になる同僚に引かれ、青白くなった指でカリカリと一心に書き綴っても一向に減らない書簡。□□□ ごめんなさい本当に涙が零れました。



 オズワルト様、もっとやれとは思いましたけど、私の仕事を増やす事はないでしょう。
 可愛い弟弟子…いや、妹弟子を追い詰めて楽しいんですか、楽しいんでしょうね。この無駄にイケメン陽性俺様快楽主義な鬼畜最低えげつなさだけ最高魔王様め。

 「ロリコンもいれとけ」

 ボソッと背後から呟いた同僚は、直後いつもより強度の増した金ダライに見舞われたが、いつもの光景なのでスルーしよう。



【オヴレシア国記】
―マグノス歴8年宮廷日録
書記官 ラヴェンナ=ルシェド


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 さて、ここからは私のメモと言うか独白なので、消えても無くなっても別に構わないんだけど、まぁ残ってくれると有り難いわ。後世の人に同情して貰えると尚よし。どうせ今の時代じゃ私の頑張りを認めてくれる人なんていないんだから。

 世のお嬢様方の書く日記みたいな愛らしいものじゃなくて、私の溜まりに溜まったフラストレーションが爆発した結果(=つまり愚痴)をズラズラ書くだけだけど、書いて鬱憤晴らすのプラス、もしかしたら今これを読んでいるあなたが、この時代に起こった事を知る手掛かりになる物が隠されてるかもしれないから、みたいなテンションでいくわよ。

 ■■■ ごめんなさい、早速インクで汚してしまったわ。

 同僚が興味深げに横から覗き込んで、「公式記録も愚痴ばかりだろ。何を今更」とか言ってくるから、すかさず何処からともなく落ちてきた金ダライの上から、全体重かけた踵落としをお見舞いしてやったんだけど、悶絶しながらも「いい眺め」とかニヤって笑ってくるからついオズワルト様直伝痴漢用肘鉄かまして地に沈めてしまったの。その時硯を揺らして汚れてしまったのね。だから私のせいじゃないわ。同僚のせいよ。

 全く、ひらひらした官服着てるから動きにくいのよ。誰だこれ採用したの。思い出しました王様です。あの美声エロジジィ、不能になってしまえ。

 地味な顔に、貫禄ある肉付きの良さとは違う、でっぷりした贅肉の塊。後宮の妃方から、「言葉責めだけがいい」「真っ暗で何も見えなければ我慢出来る」などと言われているのを知ってるのかしら。どうせ知らないんでしょうね。
 あぁ言ってやりたいわ。「あなたの価値はその声だけです」って。自分を客観視出来ないって悲しいわね。あの王、自分は絶世の美男子だと思ってるんだから。鏡見ろってんのよ。

 一般的に美形って言ったら、アルファ様にオズワルト様を指すのよ。性格は置いといて。性格は置いといて。大事だから二回言ったわよ。あとはそうね。カルフシア皇太子は背中に薔薇背負ってたわね。第二王子や第三王子は拝見した事ないけど、第一王女様や皇太子、カルフシア王夫妻から察するに、やっぱりきらきらしいお顔なのでしょう。
 国力差もだけど、王族としてのステータスでも負けてるって、もうどうしようもないと思うのよね。オヴレシアで持て囃される顔って、処刑された宰相(享年75歳)に、近衛兵の一部、あとはまだ悶絶してる、隣の同僚くらいじゃないかしら。上記の中で仕事も出来るって要素を加えると、同僚しか残らないし。しかも同僚はカルフシアの間者だから、やっぱりカルフシア側の人間なのよね。駄目だわ負けてるオヴレシア。

 王があんなんだから臣下もあんなんばかりなのよ。つまりは王が駄目過ぎるのがいけないわけよね。もうあいつ退位すればいいのに。どうせ鳥から逃げ回ってるだけなんだから。



 「火事だ!」ですって。オズワルト様、嫌がらせはもうちょっと手段を選んで欲しいわね。

 さて、未だに地に臥している同僚を起こして、書簡を避難させましょうか。



記 ラヴェンナ=ルシェド



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