宮廷書記官の復讐記録 | ナノ



【オヴレシア滅亡秒読み間近】

 大国カルフシア。
 この10年の間に劇的な成長を遂げた、大国家である。
 齢60にはなろうかという歳ながら、老いてもまだ矍鑠(かくしゃく)としたカルフシア王の辣腕振りは、世界広く伝わっている。戦をすれば百戦百勝。しかし無益な争いは好まぬため、人望厚く基盤も堅い。ついたあだ名が“英雄王”。うちの“破滅王”とは比べようもないくらい、絵に描いた様な賢王である。

 カルフシアは近年、新たな資源発掘に力を入れ、先日とある小国家に目を付けた。言わずもがなオヴレシアである。オヴレシアは、気候も穏やか、土壌も良好という強国にとっては格好の獲物であるが、これまでの歴史の中で、諸外国の侵入を許したのは、たったの数回きりであった。理由はひとえに、オヴレシアが、険しい山々に囲まれているからという立地条件に他ならない。山脈が外敵の侵入を防いできたから、軍事力の低いオヴレシアが、今まで独立を保ってこれたのだ。そして、カルフシアが目を付けたのが、この山脈――メルセン山脈一体で大量に採掘出来る、マナ石だった。

 カルフシア王は、無益な争いは好まぬが、有益な争いには手段を選ばない。オヴレシアに圧力掛けまくって掛けまくって掛けまくって、いくつかの条件と引き換えに、マナ石の採掘権利を手に入れた。
 この様に記せば、オヴレシアに圧力を掛けたカルフシアが、益に目が眩んだ賊国のようだが、我が国の内情を知る者ならば、それはそっくりそのまま逆に映るはずだ。

 伝統を重んじ、歴史ある小国家、オヴレシア。“歴史ある”。その一点と、堅固な山脈に守られていたことから、外部からの干渉を受けずに今まで繁栄してきた。しかし、長きに渡る鎖国的な時代の中で、少しずつ、少しずつ、じわじわと歪みが生じる事になったのだ。
 歴代の王は、自分が至高の存在であると疑わず、贅を重ね民を弊し、傍若無人に振る舞った。貴族や官吏も媚へつらい追従するだけで、暴君を諫める者は誰もいない。特に8年前、珍しくそれなりに善政を敷いた前王を謀殺し、王位に就いたマグノス=セスティアロレス=オヴレシアは、歴代でも最も非道と言っていい。類は友を呼ぶと言うか、王の周りを固める貴族も、皆一様に残虐非道で自己顕示欲が強く、器に合わない欲を持つ。相手の強さも測れず、過信するから今回みたいな失政をするのだ。カルフシアに捕らえられた宰相貴族の首が落とされ、やっと危機感抱いた王が蒼くなって泡吹いて倒れたのは記憶に新しい。ププーッザマァジジィどもめ。

 …しかし、流石に上記の様な屑役人ばかりではない。一人残らずあんなんばかりだったら、人生はかなんで自殺はしないけど王をフルボッコにはしたくなる。今でもしたいけど。
 ほんの一部、心ある者たちは、国を捨て亡命するか、他国の力を借りてオヴレシアを滅ぼそうと、各国に協力を願うため、それぞれの国で自分たちの能力を最大限に発揮している。だが、オヴレシアに残り、内部から反乱を起こそうとする者はいない。理由は簡単。自国の民だけで反乱を起こしたところで、少人数過ぎて簡単に鎮圧されるだろうから。

 ――それくらい、オヴレシアには、国を思って改革を唱える人物が少ないのだ。

 だから今回のカルフシアの圧力も、蓋を開ければ、オヴレシア改革の為の取っ掛かりに過ぎない。
 ここまで言えば、どちらが正義かなんて、子供でも分かるだろう。

 ――悪政を敷くオヴレシアに、マナ石採掘という大義名分をかざした“英雄王”カルフシア王の制裁を。

 それがオヴレシアの王族貴族を除く人々の願いであり、また、そう遠くないうちに実現される未来であろう事は、濁り切った目のオヴレシア王以外の者には、分かり切った事であった。

 とりあえず、早く地に還って下さい。マグノス=セスティアロレス=オヴレシア。



【オヴレシア国記】
―マグノス歴8年外交譚
書記官 ラヴェンナ=ルシェド


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