宮廷書記官の復讐記録 | ナノ



【就任報告】+α

 後世の皆様初めまして。何でかオブレシアの記録も読んだ事のある奇特な方はお久しぶりですこんにちは。
 嬉しくない事に、本日付けでカルフシア宮廷で書記官を務める事になりましたラヴェンナ=ルシェドです。以後お見知りおきを。

 前任のサユハ女史は、筆舌に尽くし難い怪妙(けいみょう)で独特な文を書く方でしたが、私は軽妙(けいみょう)で毒々な文を目指して日々の記録を綴って参ります。抗議は受け付けておりません。私にサユハ女史の様な記録はとれません。と言うか誰だってとれません。彼女の文体を真似る事は、亡きマグノス=セスティアロレス=オブレシアが復活して「余が悪かった。反省している。どんな罰も甘んじて受けよう」と言う事くらい不可能です。つまりあり得ない。ついでに申しますと、“あり得ない”は王が復活する事ではなく、王が自分の非を認めて殊勝な言葉を吐く事にかかっています。うん、ねぇわ。
 さて、軽妙洒脱な文章を目指しているはずが、既に只の愚痴になってしまっている事については深く突っ込まないで下さい。何しろ初めてのカルフシア宮廷記録。私も緊張しているのです。ああ、私がこの仕事に就かなくてはならない原因を恨みます。ふざけんな■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 最悪です。公式記録を平気で塗り潰す元同僚が信じられません。そもそも何で隣にいるんでしょう元同僚。暇なんですか、暇なんですね。……暇ではないそうです。首を横に振っています。嫌そうな顔で。

 さて、元同僚であり、一時的に王宮書物庫の警備兵に降格された現職近衛の彼が、なにやら言い訳がましい事をぶつぶつ呟いているのでそれを筆に起こします。



 すまない。情けないが言い訳させて貰おう。前任のサユハは、無駄に装飾過多な美辞麗句で埋め尽くされた、内容の薄い記録しかとってこなかった。彼女のそれは、文才があると言えるだろうが、記録官向きの才ではない。よって、この度優秀な書記官である、ラヴェンナ=ルシェドに引き継がれたわけだが、彼女も問題がないとは言えない。サユハと違い、彼女の記録は個人的な愚痴に溢れている。それでも彼女の才能は確かであり、信用に値するものだが、やはり暴言にも限度があろう。度が過ぎるものは添削が入る事を先に述べておく。



 以上です。
 本当に、サユハ女史の絢爛豪華な文章は真似出来ません。文章だけでなく、六十年という歳月を書記官に費やした彼女の信念は……、いえ、私も持ち続けるべきものでしょう。

 お歳による視力低下のため、書記官を続けられなくなったサユハ女史の代わりに、私ラヴェンナ=ルシェドは、彼女の意志を受け継ぎ実務に臨む所存であります。



【カルフシア国記】
―書庫人雑記帳
書記官 ラヴェンナ=ルシェド



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 どれほど大国だろうが、どれほど優良だろうが、記録を添削するなんて言葉を容易に出す時点でカルフシアの“記録”に対する感情が透けて見える。
 マグノス=セスティアロレス=オブレシアを筆頭に宮中が腐敗していても、オブレシアは記録に手を加える事はしなかった。それが無駄に脈々と連なる歴史を誇りに思っていたからか、マグノス=セスティアロレス=オブレシアが興味の範疇外に置いて関知しなかったからかは分からないが。

 重要なのは理由ではなく結果。

 オブレシアが記録を無下に扱った事など、たった一度の事例を除いて、古来より数百年、なかったのだから。


 “記録”は軽んじられるべきものではないのよ。絶対に。



記、ラヴェンナ=ルシェド


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