翁の話5

確かに、魔術師どもはクソだったが、王はまともだった。
こんな醜い姿になっても王城へとどまってほしいと言ってくれたが、
翁自身がクソ魔術師どもとこれからも一緒に仕事をする気にはなれなかったので
丁重に辞退したのだ。
クソどもが王へあることないこと吹聴していたとしても女王は翁を選んでくれた。
その娘である王女ですら、翁を気にかけていた。
だがどれほど翁が優秀であっても、結局はクソ魔術師たちが束になった方が強い。
それもまた、少なからず翁が王城を離れる理由でもあった。

アガタにこれまでの経緯を話したらアガタは自分の事のように憤慨し、
麓の人間以上に王城の人間を嫌悪するようになった。
けれど、アガタがあまりその事について言葉に出さなかったせいで
翁がその事実を知ることはなかった。
ある日、アガタの噂を聞きつけた王城の遣いが、翁の家を尋ねに来た。
翁が育てた『魔術師』のアガタは人間性での評判は最高に悪かったが、
渋々にではあっても魔術師としての才能は誰もかれもが認めていたのだった。
その噂が風に乗って王城へ届いたらしく、ふてぶてしい態度で現れた役人と
ご対面を果たし、その不遜な態度の役人の
顔面へ右スレートを決めたアガタを翁は笑い飛ばして、

褒めた。

「どこで覚えたんだ、それ」

「翁がいないとき、旅人が来るから、剣とか教えてもらってた」

滅多に笑い声をあげない翁にちょっと驚いたが、アガタもムカつく顔面へ
拳をぶち込めてすっきりしたのでほんの少し得意げに言った。
翁は度々各地の古いなじみの魔術師のところへ出かける事があった。
人間嫌いとなった翁が他人を尋ねるというのがアガタにはとても
新鮮で、またうれしかったので留守を頼まれてもついていくと
駄々をこねることもなく大人しくそれに従った。
翁と同じように国から国を旅する旅人が、野宿のために場所を貸してほしいと尋ねてくれば、
翁は邪険にせず、小屋の周りの開けた場所を提供した。
昼夜問わず山道や、山の開けた場所では野党がうろつき、襲われたりするが、
翁が住むこの山の辺り一帯は翁の守りの魔術のお陰と、
翁が恐ろしい闇の魔術師という評判が巷を大手を振るって歩いているので、
ほとんどの人間は寄り付いてはこなかった。
時折腕試しと頭の悪いものが小屋を襲うこともあるがその度に
翁が返り討ちにしているのである。
そういうこともあって、旅人は翁の性格を十分に分かっており、
適当な距離を保って利用させてもらっていたのだった。
恐ろしい形相の魔術師の情報も得ている彼らは外見には頓着しないので、
無理強いしてフードをはがそうともしない。
すでに化け物のような形相だとうわさが流れているからこそ、
不用意な接触を避けているというのもあるが。

「この間は槍の使い方を教えてもらった」

「お前には先生が沢山いるんだな」

先生という言葉の中に翁も含まれているのだと察知したアガタは満面の笑みで頷いた。
恐らく、こうやって旅人にもおだてられて色々叩き込まれているのだろうと
容易に想像ができて翁は口の端を釣り上げる。

「何かあったら翁を守るね」

「魔術でなんとかできるようになれ」

「魔術は、あ〜〜。まだ、もうちょっとだから…」

『ポチにあしらわれてるうちはまだまだだなあ、確かに?』

「うるっさい。ポチが強すぎるんだよ」

『当たり前だ。山の主だぞ。熊や狼だってひれ伏すのに、なんだって
こんなガキをお気に入りにしてるかほんとに不思議だぞ俺は』

風の精霊が呆れたように言った。

「アガタはポチをかわいがるからな。だからポチもアガタを可愛がる」

「だって、あんなに美味しいミルクを飲ませてくれるなんて、ポチはすごいよ。
チーズだって作れるし、ポチすごい」

アガタが嬉しそうに笑った。
その笑顔を微笑ましく眺めていた翁だったが、不意に
とてつもない違和感に襲われた。
これは誰だろう。
自分は、『弟子』をとるはずでいたのだ。
なのに、ここで幸せそうな笑顔を自分に向けてくる少年は、
いったい誰なのだろう、と。






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