翁の話4

翁は四六時中フードを目深にかぶって生活をしている。
家の中でも、眠るときでも、入浴の時だけはさすがに外すが、
絶対にアガタには見られないように努めてきた。
麓の町へ降りるときも、城下へ行くときもそうだった。
一度、城下を歩いている時に強風でフードが外れて、
化け物だと騒がれて以来、魔術でフードが外れないようにしているほどだった。
誰も、こんなに醜くなった顔を見たいとは思わない。
翁自身でさえそうだ。
鏡に映る自分の顔のおぞましさは自分がよくわかっていた。
だから驚いた。

「お願いします、捨てないで」

アガタが翁の頬へ手を添えて、そのままフードをはがし、
首に腕を回して抱きついてきたのだ。
一瞬何が起こったか翁にはわからなかった。
爛れた顔の皮膚が、アガタの顔と触れ合う。
アガタは嗚咽をあげて泣きじゃくっていて、翁はどうしていいかわからなかった。
気味悪がらない、怯えない。
むしろ、アガタは寄り添ってきた。
それが翁を更に混乱させた。

「す、てない、から、離れろ」

ようやく絞り出した声は掠れていた。
アガタは鼻をすすりながらようやく離れる。
それでも翁の顔をじっと見つめてくるので翁はいたたまれず
フードへ手を伸ばした。

「なんで隠すの?」

「俺の顔は醜い。気持ち悪いだろう。こんな爛れた皮膚の」

「翁は綺麗だよ。俺は好きだよ」

『彼氏かよ』

「うるさい。どっかいけ」

『風の精霊様に向かってどの口が言うんだコレか?あ?』

「痛たたたた!やめろ!!!痛いってば!」

『痛くしてんだよクソガキ』

翁に抱き着いたまま頬をつねり上げられているアガタは必死に抵抗していたが
風の精霊はケラケラと笑いながらアガタの頬をつねっていた。
二人がギャアギャアと騒ぐ声でなんとか覚醒した翁は我に返った途端、
アガタを引っぺがす。
びっくりした表情のアガタを少し睨んでから、
風の精霊に向き直って、今まで見せたことのない声量で怒鳴った。

「どこでこんなこと覚えさせてきた!?」

『麓の路地裏〜。特に夜になると人間の逢瀬が始まるんだよ』

「余計なものを見せるな!そのためにお前がついてるんだろうが!」

翁はアガタにお使いのために麓へ一人で向かわせてはいたが、
子供一人ではさすがに心配だったため、常に風の精霊を護衛として
つけていた。
何かあれば翁にすぐに知らせるようにと言いつけていたが、
よっぽどの事がなければアガタの自由にさせるようにさせていたのに、
どうやら風の精霊は時々アガタに男女についての教育をしていたようだった。

『なんでだよ。面白いだろ。さっきまでつんけんしてたやつらが急に甘ったるい声だすんだぞ』

「だめだ、アガタには、早い…」

疲れたように頭を抱えているとアガタがきょとんとした顔で言った。


「何が早いの?」

知識として理解しているがアガタにはまだよくわかっていなかった。
だから時々アガタの顔目当てで話しかけてくる女の子や女の人に
率直にそれは綺麗だとか、かわいいとか色々話していたら
知らず知らずのうちに密かに好意を寄せられているパターンが出来つつあった。
もちろんアガタ本人にはあずかり知らぬ事だが風の精霊はそれが面白くて
黙って観察するのも娯楽の一つであった。




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