「お断り申し上げる、アルストロエメリア陛下」

ウイキョウはいつか使っていた騎士の言葉を久しぶりに使った。
それは王家へ仕えるものならば一度はあるものである。
口の悪いディックでさえ、前王へはへりくだった物言いだったのだ。

「陛下なんてよばないで…!ただの魔女よ…!凶悪な、残忍で冷酷な…!」

「私は、陛下をお慕い申し上げております。…セザールには悪いですが。だから
陛下を殺しません。全力で生かします。貴女が自殺しようとしても止めます。
死にたいと食べ物を拒否しても無理矢理にでも押し込みます。陛下には生きて
頂かなくては。国の為ではなく、私の為です。私の我が儘の為に私は貴女を生かします」

「ウイキョウはいつもそうだ。私に優しい事なんて一つもしてくれない。酷い。
魔女より冷酷よ。それに慕っ………え?」

「えっ」

しっかりとウイキョウの腕を掴んでいたのは確かにアリスだったが、きょとんとした
彼女はさっきまで力一杯握っていたウイキョウの腕からそっと力を抜く。
そして尋ねた。

「誰を」

「アルストロエメリア陛下を」

「アルス…誰?」

「君だね、アリス」

さも、平然と述べたウイキョウを思い切り突き放したアリスは
勢い余ってよろけて転んでしまった。
ウイキョウにも反動があったはずだがそこは普段から鍛えている
兵士だからか、バランスよく体勢を保っている。

「!!!〜〜〜!!!!?!?」

「もう離れるの?」

「こんな時に何を言うの!」

「こんな時だから言うんだよ。言ったろ。そもそも今回の事は君のせいじゃないんだから
君が暗くなる必要なんて無いんだよ」

「そんな訳にいかないでしょう!?父様だって…他の兵士も、それに、ディックだって
死んで…!」

「ディックは俺が殺したからね。一応今回の事を言ったんだけれど、ディックは
セザールと違って魔女もろともアリスを殺す派だったから。決裂した」

「ディック…」

自分が生きていていいとは思わない。
それだけの事を魔女に取り憑かれていたとは言え行動に起こしたのはアリスだ。
その姿を見たものは大勢いるのだろう、ウイキョウだってその一人だ。
だからアリスが考える中ではディックの行動に一番賛同できる。
しかしどこか心の底で、ショックを受けたのもまた事実だ。

「セザールはアリスに盲目だからなんとしてもアリスだけは
生かしたいと思っていたと思うけど、それだけじゃダメだし」

「ディックが正しいのよ!」

そうだ、ディックが一番正しいのだ。
そしてディックに賛同した自分も正しいはずだ。
どんなに謝罪の言葉を述べてもどんなに償いをしてもそこに生きていた人達は
蘇ったりはしない。
アリスに、魔女に殺された人達の遺族はそれだけでは決して満足しないし
許してもくれないだろう。

「言ったろ。俺は我が儘なんだよ。アリスは生かす。石を壊せばそれでいい。
ただメルンヴァは石だけは欲しいみたいだけど。それならそれであとは
俺の知ったこっちゃないからな」

「だ、だめじゃないの!」

「いいんだよ。それならそれで、また魔女が誰かを乗っ取るような事があれば
今までの事はアリスのせいじゃないって証拠にもなる。どう転んでもアリスに
悪い事にはならない。でもアリスと石だけは切り離すべきだった、もう少し早くから。
それなのにセザールはアリスに甘いから石を持たせたままでいるし、
頭にきたから城を出た」

「それなら教えてくれたって…!」

「言ったよな、俺。さっさと石なんて手放せって」

「いっ……!?た………」

「国の懐も潤うだろうし、いっそ売り払えって」

「言った……でも、売るのはダメよ!一応国宝なのよ!?それに危ないし…!」

「そう言ってる本人が被害に遭ってちゃ世話ねーだろ」

「ウイキョウってば優しくないわ、やっぱり」

「そりゃどーも」



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