かつてのユルドニオ王、キルッシュトルテニオ・ノグ・ユルドニオは、ノグの意思を
受け継ぎながら現在のユルドニオを作り上げた。
魔女の魔力を石に封印したという魔女の変は後に伝説として語り継がれた。
そのユルドニオ王の子孫がアリスだ。
キルッシュトルテニオは代々石を受け継ぐ者に真実を伝える為、魔法を掛けていた。
受け継いでいく者達はユルドニオ王の遺言を堅く守り今まで国を繁栄させてきたが、
それも魔力を持つ者がいる時までだった。
近年では魔力も薄れ、アリスのように大道芸にもならない程度の魔術しか
扱えなくなってしまっている。
そんな彼らにはキルッシュトルテニオ王の言葉が届く事は無く、石を継ぐ者が
口頭で伝えるだけに留まっていた。
キルッシュトルテニオが一番畏れていた事である。

「石に頼り過ぎるからだ…魔力もない癖に…!」

「隊長!どうするんですか!?」

「お前らはエランシスにこのことを伝えろ。回りくどい事はいい、ユルドニオの
兵士達にも停戦しろと伝えて…とにかく避難させろ!国がどうのと言っている
場合じゃない!」

ウイキョウは殆ど怒鳴りながらギリアにそう言い放つとすぐにアリスに向かい合った。
アリスはまだ意識が戻っておらず、魔女の意思が支配しているようだ。
魔法の使えないウイキョウにとっては完全に不利な状況である。
少しでもアリスの意識が戻れば石を奪い取ってどこぞへと捨ててやれるのに。

「アリス!このままだとユルドニオまで焼けてしまうぞ!」

『そのために焼いているのだもの、おかしな事を言うのね、ユルドニオ王』

「だから、俺はユルドニオ王じゃないって言ったろ」

『そうね…ユルドニオ王はこの娘ね……それじゃあお前は…何?』

「アリスを助けに来た」

『魔法も使えないのに?私を助けてくれないくせに、腹が立つわ。お前も焼いてあげる』

「誰がお前を助けるか。助けて欲しかったら人を殺すのをやめろ。国まで
焼き払いやがって。他人の大事なものを奪っておいて私は助けて欲しいなんて
虫のいい話だ。お前の親はそんな事も教えてくれなかったのか。お前の周りの人間は
そんな事も諭してくれなかったのか。だからお前は本に閉じ込められたし、
魔力をこうして石に封印されたんだ。どうしてそうなったのか、理由を考えもせずに
周りの所為にするなんておこがましいんだよ。だからさっさとアリスを返せ。
そうしたら少しくらいはお前の望みを聞いてやる。聞いて実行するかは別だけどな」

魔女に取り憑かれたアリスは動きをぴたりと止めた。
相変わらず炎はうごめいていたがそれ以上威力を強める気配は無い。

「…私が、コーツァナを滅ぼしたって本当なの?」

アリスの声が震える。

「…本当だ」

「ノグの半分を焼き払ったって」

「そうだ」

「それじゃあ、わたしが、国のみんなを苦しめてるの…!私が!みんなの家族を奪ったの!」

「そうだよ、アリス。だからその石を捨てろ。キルッシュトルテニオは畏れ過ぎたんだ。
その石を捨てたとしても誰かがそれを拾ってまた悲劇を繰り返すんじゃないかって。
さっさと砕いて捨ててしまえばよかったんだ」

「ウイキョウ…私、どうしよう…なんて言ったらいいの、みんなに、みんなは
知っているの!?セザールも、ディックも…!」

アリスはウイキョウにすがるように両腕を掴む。
力一杯に込められたアリスの白い手に爪が食い込む程であった。

「知ってる。みんなアリスの味方だから、アリスが中央の魔女として殺されるのを
必死で拒否している」

「私の為?」

「うん。君の為だから。アリス。俺が君を連れ去る。誰も知らないところに」

「ウイキョウ…」

その為だけにウイキョウはメルンヴァに兵士として雇われた。
もともと自分からメルンヴァへ赴く予定だったが、メルンヴァの方から声がかかったのは
幸いだった。
もし今まで通りユルドニオに仕えていたとしたら、自国の身の安全だけを考えている
身勝手なかつてのコーツァナのように指を指されただろう。
だが敵国であるメルンヴァにいて、アリスを攫ってしまえば、あとは何を言われても
構わなかった。
アリスは魔女としてメルンヴァの兵士に殺されたとか封印されたとか
言われるかもしれないが、それならそれで好都合だ。
生きてユルドニオに留まっていれば周りからの非難を浴び、アリスは
苦しむに決まっている。
だからウイキョウはアリスを報酬としてメルンヴァに求め、その後の追跡も断ち切ろうとした。

「もしかして私は、ウイキョウも殺そうとしたの」

「……」

「何者かに襲われて行方不明だったのは…その何者かは…もしかして、わた」

「中央の魔女だったよ。アリスじゃない」

「私よ、私が魔女よ。死ぬべきだわ、首を切り落として、石ごと粉々にして、
焼き払って、民衆の前で、知らしめるべきよ」

「アリス」

「メルンヴァの大将に伝えて頂戴、ウイキョウはメルンヴァについてるのでしょう?
手柄になるわ、ねえウイキョウ………」




「殺してよ」

アリスが一粒、涙を流した瞬間、辺りを包んでいた炎が一瞬にして消え去った。


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