「おたずねしてよろしいですか?」

「んー?」

「ウイキョウ様はどうしてユルドニオの姫を?」

「無粋だなあ、わざわざ聞くのか?」

メルンヴァの兵士は急ごしらえで結成されたウイキョウ隊に配属された。
本当は大将のエランシス隊に配属されていたがそのエランシス直々の指名であったので
イヤと言う事もできずしぶしぶ、ふらふら現れたこのウイキョウの隊に入る事になった。
しかしいざこの男の元についてみればその強さに腰を抜かしそうになった。
実際に何人かの兵士は腰を抜かしていたほどだ。
ギリアはウイキョウの人の良さにも好感を覚え、今ではすっかり直属の上司と部下の
関係となっている。
こんな風に冗談を言い合えるのがほんの少し嬉しかった。

「す、すみません…」

「うん、まあ、ギリアも姫を見つけたらすぐに教えて欲しい。絶対に、何もしないで
欲しい」

「わかりました。見つけたらすぐにご連絡申し上げます」

「そんな堅苦しい言葉使うなって言ったろ〜?」

「いたっ!はは…はい…」

歳の頃は18〜9。
すらりと伸びた手足で体についている筋肉には無駄が無く、戦いの中で
凄まじい瞬発力を生むであろう事がよく分かる。
身長はギリアと同じくらいだが表情には幼さが少し残っていて人なつっこそうな印象を
受けた。
栗色の髪はさらさらと柔らかそうに風になびき性格は…言わずもがな、である。

「取り憑かれてるんだよ。あの赤い石に」

「え?」

「こっちの話。さ、行くぞ。手っ取り早く本陣を叩けばいいものをこんな回りくどいコト
しているから時間も金も人の命も無駄になるんだ。なんだってみんなバカだよなあ?」

大きくのびをしたウイキョウの装備は薄く、頑丈な鎧を身に纏ったギリア達兵士とは
違い、攻撃に特化した軽装備である。
守りを最小限にとどめたそれは、胸当てと籠手だけである。
使い慣らされた剣に手を掛けて、ウイキョウはまっすぐ進んだ。
ディックと戦った位置から天幕まではまだ距離があったが目と鼻の先と言っても
いいぐらいの近さだ。
障害物がある為身を隠しながら相手に気づかれること無く進める。
何より、ウイキョウに土地勘がある為兵士達はウイキョウについて行くだけでいいのだ。
ああだこうだと逐一地図を広げて辺りを伺いながらどのルートを行けばいいかなど
考えなくて良い。
ウイキョウの隊にはギリアの他、3名しか兵は与えられなかった。
与えられなかったとは語弊があって、ウイキョウがその人数を指名したのだ。
人選はエランシスだが最終的に人選の決を下したのはウイキョウである。
ユルドニオの地をすいすい攻略している事に彼らはわずかながら高揚感を覚えていた。
兵士としては経験を積んでおくにこしたことは無いが、余計な戦闘をしなくていいと
言うのは体力的にも精神的にも余裕を持たせる。
それが成功すればするほど高まりは増していき、まるで自分達だけが、崇高な任務を
成し遂げている気分になっていた。

「ウイキョウ」

不意に女の声に飛び止められてウイキョウはそちらを向いた。
ばたばたとあちこちを走り回る兵士達の中からぽっかりと浮かんだような少女は
ウイキョウの名を呼んだきりそこに立ち尽くしている。
ウイキョウの後ろに続いていたギリア達にはその時のウイキョウの表情は伺い
知れなかったが、おそらく彼女がユルドニオの姫なのだろうと誰もが思った。

「久しぶり。ちょっと見ない間に美人になったなあ」

「ディックを殺したって本当なの?」

「うん。ディックも強くなった。手こずってびっくりしたよ」

「どうしてメルンヴァにいるの?」

「君を連れ出す為だ。安全に」

「どこに連れて行ってくれるって?」

「わからないけど、誰も知らないところに」

「どうして連れ出すの、私を」

アリスもウイキョウも感情が欠落したように静かに問い、答える。
だがその最後の質問にウイキョウは覚悟を決めて手にしていた剣に力を込めて低く構えた。

「君が石に取り憑かれているから。石から君を切り離す。ノグの国を半分焼き、
コーツァナを滅ぼした君を、その石から」

「まさか、彼女が中央の魔女…!?」

アリスの体が勢いよく炎に包まれた。
その業火の熱を防ごうと、周りにいたユルドニオの兵士も、ギリア達も顔を腕で覆う。
ウイキョウだけはまっすぐアリスを見つめ、アリスはうつろな瞳で空を見上げていた。

「アリス!起きろ!」

『どうせまた私を本へ閉じ込めるんでしょう、翁!』

「翁…ノグの大魔術師か!?」

『ユルドニオの王、許せない、私の力を奪って…!返して!私を返して!』

アリスの声とは別に誰か女の声が重なっている。
アリスの胸に光る赤い石がうっすらと光っており、アリスも一緒に包んでいる。
アリスには殆ど魔力は無い。
だから、魔術を使う時はその赤い石から魔力を供給してようやく竈の火をおこす程度の
ものが使えるほどだったはずだ。
今周囲を焼き尽くそうとしているのはアリスでは無く、石に宿っていた中央の魔女の
記憶だった。
幼い頃からその石に触れていたアリスは
魔女の記憶に取り憑かれていた。


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