攻め入っているメルンヴァを迎え撃っていた兵士達はその戦力差に
どんどん疲弊していく。
斬っても斬ってもわらわらと表れるメルンヴァの兵士達はまるでゾンビのごとく
倒れては表れ、倒れては表れを繰り返しており、ユルドニオ兵士達の前に
立ちはだかっていた。
もともと数では圧倒的に劣っていたのに加えて、メルンヴァの兵士には精鋭が揃っていた。
軍事大国ノグの恩恵を受けて小国であったメルンヴァはめきめきと頭角を現し、
ついにはユルドニオやコーツァナと並ぶ大国にまでのし上がった。
未だその威厳を保っているノグには遠く及ばないものの、メルンヴァはかつての
儚さを持ち合わせてはいなかった。
かつて魔法がさかんにしようされていた時代とは違い、今は物理攻撃に重きを置いている。
魔術に頼っていなかったメルンヴァは特に物理攻撃に力を注いでいた為、今日に至っては
精鋭と呼ばれるまでに成長しているわけだ。

「時の王は強大な魔力で国を護ったって言うけどなあ…」

「魔法な〜。実際、姫の宴会芸くらいしか見た事ないからな。いまいちピンと
こないよな」

「おいおい、今は『陛下』だろ」

「あー、そうだっけ。つい姫って言っちゃうな。しかし女王だなんて。
まるでノグみたいじゃないか」

「ノグか〜あの国がもう少しメルンヴァに干渉してくれればなあ」

誰もがこんな事には、と口をつぐんでそれっきり言葉を交わすことがなくなった。
ドロドロに汚れた兵士3人はそれぞれに地面に横たわり、空も見上げられず
静かに息を引き取った。
体には無数の切り傷がつけられていてうち一人の背中には槍が刺さったままになっている。
時が経てばメルンヴァの兵士達が彼らの身ぐるみをはぎにくるに違いない。
そうしてユルドニオの兵力はゆっくりと、しかし確実にそぎ落とされていったのである。
アリスはこの悲惨な現状から幾度となく目を背けたくなって眉間に皺を寄せていた。
けれどもその度に思い起こして自分を奮起させ、しっかりと前を向いて今の状況を
必死に頭へたたき込んでいた。
さっきまで言葉を交わした兵士が物言わぬ死体に変わる瞬間が訪れる度に胸が
締め付けられ、どうして自分にはなんの力もないのだろうかと胸に飾られた赤い宝石を
何度も何度も握りしめていた。
いっその事ここでこの宝石の力を解放してしまえばいいのではとさえ思ったが
王家に伝わる言い伝えを守る最後の砦が自分しかいない事にアリスは唇を噛んで
耐えていた。

「陛下、第3部隊も突破されました!」

「なんだと!?早すぎる…」

「どうやらまた新しい戦力を投入した模様です」

本陣に駆けつけた兵士がセザールの動揺にたたみかけるように告げたが
陛下と呼ばれたアリスは比較的冷静さを保っていた。

「ノグからの援軍かしら」

「今更ノグが何を援護しますか。あの国は絶対に手を貸しません。…傭兵でも
雇ったかもしれませんね」

細身のセザールとは違い、体格の良いディックは皮肉も込めて肩を竦めながら言った。
アリスはディックの言い方が気に入ったらしくにやりと、姫としては可愛げの無い
企むような笑みを浮かべる。

「…傭兵。いいわね。ウチにもお金があったらどんどん雇うわ」

「それは良い考えですな。まずは手っ取り早くメルンヴァの装備品を剥ぎ取って
売り払いますか」

「それじゃあメルンヴァと変わらないじゃない」

いやよ、と口をアリスが尖らせるとセザールは答えがでましたね、と冗談を
言い合う二人をなだめすかす。
可愛らしいアリスと一緒になってディックまでもが口を尖らせているのだからセザールは
呆れて首を横に振らざるを得ない。

「それでは傭兵は諦める事ですね。ディック、私は様子を見に行く。陛下を頼んだぞ」

「うるせえ、俺が行く!前線から引っ込めやがって。さっきから外に出たくてうずうず
してるんだ」

「ん〜。血の気の多いことは美しきかな」

「陛下。使い方が間違っておいでです」




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