「私も行く!」

「なりません姫!」

「現場の指揮をとります。主が隠れてなにが国か!」

「主であればこそです、国の中心がそう易々と前線に姿を見せるものではありません!」

「大丈夫。私には魔法がある。やつらの鼻をへし折るくらいは…」

そう言ったアルストロエメリア…アリスの手の中には手のひらに収まるほどの大きさの
宝石が収められている。
隊長と呼ばれた男はやや暫く考えてからやはりこれ以上このおてんば姫を
押さえつけておける力は残っていないと悟り、溜息を吐いた。

「……わかりました。ですが護衛をつけます。彼らから絶対に」

アリスは男のその言葉を聞くや否や自分の部屋へすっ飛んでいき、戦の準備に取りかかった。
腰に剣を下げ、軽装備に身を包んだがその後を追いかけてきた侍女が憤然として
アリスの身につけたものをことごとく剥ぎ取ってしまう。

「まああ!そんな格好で!戦に出るのならばそれなりものがあるんですよ!?」

侍女の女はぷりぷりとしながら手際よくアリスの体に衣服を身につけていく。
女性らしいものでありながら、動きやすく、飾りもシンプルで腰に下げた剣も
引き抜きやすい。
体を守る防具もさっきまで着けていたやぼったい男物では無く、きちんとした女物で
さっきまでの重量感を感じさせない品だ。
すっかり感心してできあがった自分の格好を鏡であちこち確認していると侍女は
満足そうに何度も頷いていた。

「これがそれなりの格好と言うものです」

「有り難う…すごく素敵」

「さあ、殿方を待たせてあるのですから、お急ぎください」

母親のようにそう言って送り出してくれる侍女にアリスは思わず目頭が熱くなる。
一歩外に出ればもう自分は姫ではなくなってしまうだろう。
血や泥で体中を汚しながらも国の為に戦う兵士達と同じだ。
戦場へ出れば身分も地位もない。
そしてきっと性別もない。

「ありがとう、ネオ。行ってきます」

城には逃げそびれたり、自主的に国に残っている人々が身を寄せている。
ネオもその一人だが彼女は最後の最後まで、アリスの『侍女』としてここに残ってくれた
唯一のアリスの身内だった。
すでに親も兄弟も亡くしたアリスにとって心の許す事の出来る数少ない人物である。
そんな彼女も含めて、アリスはユルドニオを守りたいと心から願っていた。
たとえそれが叶わない願いでもアリスはそうするべきだと信じて疑わなかった。





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