魔女の宝石。
言い伝えでは大昔、悪い魔女の魔力を封印したと言うその赤い石には強大な力が封じ込められているのだと言う。
歴代の王がそれを守り、管理していたらしいが今ではそれも数ある伝説の一つとして、
子供の子守歌程度に語り継がれるくらい人々の記憶からは遠ざかっていた。

魔法も、精霊すらも人々の記憶から薄れていた頃。
世界は戦争にあけくれ、野は焼かれ、空は赤く染まり、海は黒く汚れて人々の表情には
影が落ちていた。


「は〜。こりゃあ、また。随分と派手にやったもんだ…」

「感心していないでさっさとご挨拶へ向かえ。貴様のような下級の者を使って下さるのだ、感謝しろ」

「はいはい」

目を離せば物陰に連れ込んで殺してしまいそうだと言わんばかりの案内役の男に
軽く返事をする。
大層えらぶっているがこの男とてこの戦場では下っ端の下っ端なのである。
ただウイキョウよりは『この戦場』での経験値が少しだけ上と言う、ただそれだけだ。
地面に散らばっている死体から使えそうな装備品を剥いでいく兵士と何度もすれ違う。
そんな中にもまだ生きている人間もいたが、装備品を物色している兵士は
慈悲もかけずにそんな敗戦者の息の根を止めていく。
ここでは人としての感情が狂っていた。

ただ相手を殺すことのみを目標とし、敵陣地の攻略をもくろむ。
そうして自分達の領土を広げているのだがあとに残るものなどなにもないのだと言う事に
彼らは最後まで気づかないのだろう。
ウイキョウを招いた人物がいる天幕へ足を踏み入れると先ほどまであったであろう会話が
途切れたような雰囲気を感じて唇を固く結ぶ。
ウイキョウは背後に立っていた案内役の男が今まで会った中で…と言っても
わずか数分だが、一番誉れ有る任務かのように背筋を伸ばして
ウイキョウを連れてきた事を伝えた。

「お前がウイキョウか」

「どうも〜」

「早速だが仕事をして貰おうか」

「いいえ、早速するのは契約内容に関してですよ大将サン。散々こき使われてから
やっぱりお金はありませんでしたなんて言われたら困りますからね。
先に決めておかないとほら、モチベーションも違うし?」

「貴様、生意気だぞ!」

大将が座る両隣にはおそらく側近であろう男が二人立っていた。
その一人がいかにも熱血男と言った風貌でがっちりした体に剣帯を巻いた腰から
すらりと磨き上げられた剣を引き抜こうとする。が、ウイキョウはにっこりわらって
臆すること無く言った。

「生意気だと思うのなら雇うのをお止めになってください。俺は別に構いませんので」

「お前の言い分が正しいな。それで、どの位の報酬が望みだ」

「そうですね。姫を下さい」

「何?」

大将の眉尻がぴくりと上がる。
ウイキョウは更に詳しくしっかりとした口調で大将へ告げた。

「これから攻め入ろうとしている国、ユルドニオの姫を、五体満足傷一つ、
穢れ一つつけずに俺にください。その後、俺達に干渉を一切しない事」

「ユルドニオの姫をどうするのだ。嫁にでもするつもりか?」

大将が言うと側近の男二人が嘲るように笑ったが
ウイキョウは恥もせず、一緒に笑うこともせずひたすらに真面目な表情を貫いていた。
答えないウイキョウにやがて側近の男からは笑みが消えていく。
大将はウイキョウが本気なのだと悟ると静かに目を伏せて一つ頷いて見せた。

「わかった、お前の望むとおりにしよう」

「ありがとうございます」

「ただし、傷一つつけずと言うのはこちらの兵士に言える事ではあるがあちらが
向かってきた場合には正当防衛の為に刃を向けねばならぬ事もある。簡単にはいくまい」

「大丈夫です。姫を見つけたら俺に知らせてもらえればあとはなんとかします。
勿論ちゃんと働きます」








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