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壁とはそもそも隔てるものである。
外からの攻撃、或いは雨風を防ぐもの、それからテリトリー。
作り方によっては破壊できてしまうものだが
絶対に壊れない壁と言えば


「門前払いだ」

「あらまあお気の毒に。それでおめおめと戻ってきたの」

「他にどうしろって言うんだよ。大体いつでも会いに来いって言うなら
門番にちゃんと伝えておくだろ、普通」

ようやく城の無償清掃活動が終わったと言うのに一歩城を出た途端に進入禁止だ。
それまでは城の外へ一歩も出る事すらかなわなかったと言うのに
手のひらを返したような扱いとはまさにこのことである。
カントが城にいる間はずっと顔を合わせていただけあって
会えなくなるとなると寂しさがこみ上げる。
カントに城を出てもいつでも遊びに来て欲しいと帰り際に言われたので
少し緊張しながらおおきく重たい門を叩いたのに門番はサフワをまるで
犬を追い払うかのようにあしらった。

「まあ、あんたには縁のない人だったんだよ。ねえ?
そんな子はもう忘れたら?」

「やめろ、誘惑するな」

「あら、誘惑したらその気になってくれるの?」

「……いや、ないわ」

カウンター席の隣に座っている女はからかうように笑う。
サフワは小さく溜息を吐いてその気などさらさらなさそうな女をちらりと横目で見る。
女はこの酒場の常連で、と言うか今この酒場で騒いでいる客は大体常連客が多い。
サフワもその一人だが3分の1は酒を飲んだり騒いだりするのが目的では無く、
その酒場に舞い込んでくる『依頼』である。
ここは傭兵達が拠点とする場所で店主が仕事の斡旋をしており、サフワもその恩恵にあずかっていた。
あまり大きな仕事はサフワの力量を図られて与えられないが
それでもまずまずの手応えの仕事は舞い込んでくる。
ほんの少しではあるが故郷に仕送りできる程度の手取りになる為、サフワには十分な仕事である。

「ちょっとは本気だったんだけども?」

「ハイハイ…あ〜どっかに抜け穴とか用意しとけよな〜」

「…忍び込むつもり?また捕まるわよ」

「だよなあ…まあ、アレかな、そもそも身分が違いすぎたのかな」

「あら。貴方が身分とかそんな事言う人だとは思わなかったわ。
最初に会った時だってお嬢さんなんて良いながら優劣なんて全然気にしていなかったじゃないの」

「あのなぁ、それとコレはちがうだろ、大体…って…」

声が違う。
そもそも話し声はさっきまで話していた女の方からじゃない。
女は右に座っていてサフワの顔を見て目をぱちくりさせていて、
いつも妖艶な雰囲気の彼女にしてはじつに可愛らしい表情である。
サフワは聞き覚えのある声の主の方を振り向くと生まれて初めて腰が抜けそうだと言う
思いをした。

「な…ッ!?おま、おまえ…!なにしてんだここで!」

「こっそり抜けて来たの。大丈夫護衛もまいてるからそう簡単には見つからないわ」

「そう言うことじゃなくて…!なんでこんなとこに!」

「サフワがどこにいるか街の人に聞いたらここにいるって言われたから」

「それも違う、そうじゃなくて」

「私がここに来てはいけないの?」

「当たり前だろ!ごろつきばっかりだし…!」

「大丈夫よサフワがいるもの」


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