「お前なにやってんの?」

「え?ぼーっとしてました」

「ぼーっと人殺すのかよ怖いやつだな」

ユダは本当にぼーっとしていたらしく自分の手のひらにきつく握られているナイフが
真っ赤に染まっているのを見て驚いていた。
いつかと同じように足元に横たわる血まみれの死体の横で佇む姿はどこか
はかなささえ感じられる。

「そうですかね。人間の半分は割と呆然と人殺してると思うんですよね。
本能的にって言うかそこに感情ってあまり入って無いって言うか」

「哲学か」

「そんなちゃんとしたものじゃないでしょう」

「ふーん。ハラヘッタから奢れよ」

「僕にたかる気ですか。とんでもない天使様ですね」

ゆるゆると向けてくる視線に少しだけルシフェルはぞわりとした。
そしてそれがユダなりの皮肉なのだと気づいていくらかムッとしながら返す。

「ガブリエルは名前で呼ぶのに俺は呼ばないんだな」

「だって僕天使様の名前知りませんよ」

「は?巫山戯んなよ」

「巫山戯てないです。僕は聞いてません」

「えー…あ…あー。…じゃあルシフェル様って呼べよ」

「ルシフェル様」

ガブリエルはユダがルシフェルを所有したがっていると言っていたがなんとなく
違う気がした。
ユダはただ誰かに寄りかかりたいだけなのだと思う。
その誰かがたまたまルシフェルだっただけだ。



「おう。メシおごれ」

「お金がないのでください」

「そいつの財布に入ってないの?」

「ただの浮浪者殺しただけなので。無いですね」

「じゃあ金持ちからくすねてこいよ」

「人間に悪事を強要する天使ってどうなんですか」

ナイフについた血を丁寧に拭き取りながらユダは溜息を吐く。
別に今は善良を信条とした天使では無く、地上に堕とされた堕天使だ。
羽根だって真っ黒だ。
毎日洗っているが。

「知るか」

「まあ、いいですけど…ちょっと待っててください」

「うん」

それでも行くのか、と心の中で呟いて決して嫌がらないユダの背中を見つめる。
ユダは血にまみれた服をその辺で脱ぎ捨てて通行人を襲い、そこそこに
上質な服を剥ぎ取る。
まごう事なきクズである。
そしてそれを身につけて何食わぬ顔で金持ちそうな家へなんの悪びれも無く
侵入していったそのスムーズな流れはルシフェルも感心せざるを得なかった。
そして待つこと半日。
強盗を働くのにどうしてそこまで時間がかかるのか理解に苦しんだルシフェルは
嬉々とした表情で戻ってきたユダを怒鳴りつける。

「遅い!半日経ってんだけど!?もう夜中だけど!!」

「や〜、忍び込んだ金持ちの家の娘が可愛くて」

「欲望のままに動いてるな、お前」

人が腹を空かせているときに、と付け加えてもユダは悪びれる様子がない。

「それほどでも。強盗したついでについでにその女売ってきて紹介料も手に入りました」

「ぬかりがなさ過ぎる」

「こんなに楽な仕事は久しぶりですよ」

「まあいいや。なんか買ってこいよ」

「はいはい」



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