人々が笑みを絶やさない大通りから一つ道をそれると、日の差し込む光が少ない
細い路地になっている。
そこにはその暗さと同じくらい陰湿な表情の人間がちらほらと見受けられ、
更に細い路地を覗き込むと恐喝や暴行が日常的に行われている為、普通の人間は
あまり近寄ったりはしない。
それらの一つに見知った顔をようやく見つけたルシフェルはその場の雰囲気に
そぐわない至極明るい声色で一人の男に暴行を加えている男に言葉を掛けた。

「おーやってるやってる」

「あれえ、天使様?スラム街は羽根が汚れるから来ないんじゃないんですか?」

「じじいに頼まれたから…」

「初めてのおつかいですね。可愛いですよ天使様」

「なんて言うか行動と言葉が伴ってないからどっちかにしろよお前?」

人の良さそうな笑顔を浮かべながら助けてくれと懇願する足元の男をどかどかと
蹴りつけているユダにルシフェルは溜息を吐く。
非人道的な行動を一切止めようとしないルシフェルにユダはにっこり笑いかけた。
そう言うところが天界から堕とされたこの天使の好ましいところだとユダは考えている。
これで偽善者ぶって説教でもして来ようものならさっさと心臓をナイフで一突きして殺していただろう。

「あ、じゃあちょっと待ってください。もう少しで息の根止めるんで」

「なに時間かかってんだよ。急所を攻めろよ急所を」

「そんな。あっさりやっちゃったらつまんないじゃないですか。苦痛に歪む顔と
声がいいんですから」

「わーえげつねえ」

そう言いながらもルシフェルは路地の壁に申し訳程度にくっついているゴミ箱の上に
ひょいと腰を下ろす。
やっぱり汚れそうな気がするので羽根は背中にちゃんと仕舞ってあった。

「お待たせしました〜!ああ、すっきり」

「お前何?普段から鬱憤溜まってんの?なんでそんなに溜まってんの?」

「溜まってませんよ貴方じゃないんだから。こいつが難癖つけてきたんでちょっと
むかついて」

「あ〜。じゃあまあ自業自得か」

「貴方の口から自業自得とか」

「お前の口からも笑えるから安心しろ」

「おそろいですね。付き合います?」

「黙れゲス野郎。ほらこれ。渡してくれってよ」

そう言ってルシフェルはユダへ神父から頼まれた小包を渡す。
ユダがその場で小包を開くとそれは何枚かの手紙の束であった。

「ああ…あ。すごい〜これ、紹介状じゃないですか」

「なんの?」

「神父様味しめたらしいですね。地方から連絡が来てる修道女希望の女の子の一覧です」

「わあ…なんなのお前ら。ほんと血も涙もない…」

先日田舎から来て、神に身を捧げる為に来たのであろう一人の修道女をユダは
言葉巧みに騙し、娼婦館へ送り込むことに成功した。
神に捧げる前に神父に捧げてしまった訳だが今は恐らく知らない男に捧げているの
だろうと思うとちょっぴりルシフェルは不憫に思う。

「そうですね彼女達が僕たちの血肉になるのかと思うとゾクゾクします」

「お前本気で一回地獄で反省してこいよ」

「天使様も来てくれるならどんなに辛いことでも乗り越えられる気がします」

「誰が行くかよ。俺は天界に戻るんだから」

「え?戻れるんですか?」

ルシフェルは少し憤慨しながら頷く。

「当たり前だろうが。良い行いをすれば戻れるんだよ」

「ふうん…戻るんですか?」

「は?まだ良い行いしてねーからしばらくは戻れないけど…なんだ、寂しいのか?」

ユダが思いの外食いついてきたのでルシフェルは珍しい事もあるものだと
口の端をつり上げる。
薄暗い路地の一角で、血の海に沈む死体を横にして妖艶な笑みを浮かべるルシフェルは
それはそれは妖艶に見えた。
ユダはやや間を置いて改めてその美しい堕天使を見据える。

「寂しいです。行かないで下さい」

「は?」

「天使様が戻るなら天使様を殺します」

「…ユダ…お前…」

「そんでその羽根もぎ取って高値で売りつけますね。死体は標本にでもして」

「オイ、テメ!」

「冗談です。でもずっといて下さい。寂しいのは本当なので」

「お、おう…」

「ありがとうございます」

最後の最後までかっこよくいてくれないルシフェルがユダはちょっぴり好きだった。




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