「やっほ〜ルシフェル。元気?まだ戻らないの?」

ルシフェルの特等席、教会の木の枝で街を眺めていると頭の上からするはずのない声が振ってくる。
普通の人ならば驚くところだがそこは元天使。
ひょいと顔を仰向かせると見知った姿に少し表情が緩む。

「あれ。ガブリエル。なんだよお前遊びに来たの?」

「うん。暇だったから。お前も戻ってこないしさ〜」

「…神様怒ってる?」

「あ〜なんかもうあんまり怒って無いって言うか、むしろお前堕としてちょっと
後悔してるっぽい」

「まじか」

「まじだ。だからさ〜早く戻ってこいよ〜。お前いないとつまんないし」

たかだか女一人逃がしたところで神様ならばすぐに新しい女が現れるのは目に
見えていた。
それよりも大事な部下を一時の感情で左遷した神様が悔いていると聞いてルシフェルは
ちょっぴり嬉しかった。
だが早く戻れと言われると不思議と後ろ髪を引かれる。
何が引っ張っているのかよく分からなかったが。

「うん…まあ、おいおい」

「?なに?下界で面白いことでもあるの?」

「天使様〜こんにちは…って、アレ?」

ルシフェルは現れた青年にぎくりとする。
どうして気まずい気持ちになるのかよくわからないが少しだけぎこちなく挨拶をした。

「よ、よおユダ」

「友達?人間の友達作ったの?」

「うん、まあな」

へえなどと言いながらガブリエルがユダをつま先から頭のてっぺんまで品定めでも
するように眺めている。
じろじろ見られていると言うのに全く気にする様子もないユダはルシフェルへ
視線を移した。

「あ、今度はホンモノの天使様ですか?
へえ、やっぱり全然違いますね。天使様と雰囲気が」

「全然違うってなんだ、オイ」

「やだなあ。天使様の方がかっこいいって言ってるんですよ」

「どっちの?ややこしいなあ。あ。俺はガブリエルねガブリエル様って呼べよ」

ユダがにこりと微笑むとガブリエルがルシフェルとユダの間に割って入ってきた。
宙を漂っているガブリエルは自分を指さしながらユダへ命令口調でのたまった。
だがそれでもユダは気分を害する素振りはない。

「なんか偉そうですね。まあいいや僕はユダです宜しくガブリエル様」

「ルシフェル、下界案内してよ。遊ぼうぜ」

「え?お、おう…いや、今日は…」

「いいですよ。僕はいつでも来られるんだし。ガブリエル様の観光案内して
差し上げたらいいじゃないですか」

ガブリエルはそれ以上ユダに興味が持てなかったらしく、ルシフェルを誘う。
本当ならば今日はユダと新しい服でも見繕ってこようと思っていたのだが急な来客に
ルシフェルはどうしていいかわからず困惑する。
ユダはあっさりとガブリエルを優先させるように薦めてくれてルシフェルは
いくらかほっとした。

「そうか、悪いな…じゃあ行くか」

「やった〜!ねえねえ、あの高い塔の上に行こう!アレなに?」

「俺だってそんなに詳しくねえよ…ええと…」









街の真ん中に建つ時計塔のてっぺんにやってきた二人はうっすらと汚れた空気の
ただ翌街を眺める。
天界ではどこを見ても澄んだ空気で包まれており、天使達の表情も明るいがここは地上。
善と悪が入り交じる混沌の土地だった。

「さっきの人間」

「ん?」

「すごいのと付き合ってるんだねルシフェル。あれじゃあ天界に戻れないわけだ」

「あ〜。見える?俺堕とされてから見えなくなったからな〜ソレ」

天使には人間の本質が見える。
それは人の周りに漂う「色」で識別されて天使はそれに応じて人間に
助言したりするのだが、地上に堕とされた堕天使にはその能力が欠落するらしい。
ただしこれは一時的なもので天界に戻ればまたちゃんと見えるようになる。

「うん。凄まじいよ。もうどす黒いって言うの?俺に対してもすごい敵対心だったし」

「は?なんで?」

「お前を取られたくなかったんじゃないの?人間ごときが下級とは言え天使を
所有してるつもりだなんて…身の程知らないな〜アイツ」

ユダは終始機嫌を損ねていなかったがやはり気分は悪かったようだ。
悪い事をしたとルシフェルは心の中でこっそり反省しながらもユダが
ルシフェルに依存している風なガブリエルの口ぶりが少し嬉しかった。
それと同時にガブリエルの最後の言葉がとげとして突き刺さる。

「ルシフェル?なんかやけに大人しいな。いつものお前ならもっと文句たれるのに」

「そうだっけ」

「そうだよ〜そうだサンダルフォンも心配してたよ。必要なものがあったら連絡しろって」

「別にない」

「何?怒ってるの?」

「怒ってない。次行くぞ次!」

「うん」










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