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「ユダってどこに住んでんの?」
「え?えーと、スラム街です」
「なんてベタな」
悪人にはそれなりに堕ちた場所に溜まるものだなあとルシフェルは思った。
だがこんなにさわやかな外見の青年がスラム街にいると逆に目立つ気もするが。
「天使様の教会居住も結構ベタですよ一緒に住みます?なんなら」
「いやだ。空気悪そうだし羽根汚れそう」
ただでさえ下界の空気は天界より悪く、ここに堕ちてからは殊更気を遣っているのだ。
これ以上汚れそうな場所になど死んでも行きたくは無い。
「大丈夫ですよそれだけ薄汚れてるんですから。これ以上汚くなっても目立ちませんて」
「汚れてねーよ毎日洗ってるわ!」
「へ〜だからアジエ○スの匂いがするんですか」
さわやかな笑顔でこともあろうに天使様の大事な羽根を薄汚れているなどとよくのたまうことが出来るものだ。
ルシフェルがすべすべの羽根を愛おしげに撫でながら反論するとユダはそう言えば、と感心したように頷く。
「あのシャンプーめっちゃさらさらになるぞ!お前も使えよ!」
「イヤです。僕はラッ○ス派なので」
「あっそう。って言うか普段何してんの?お前。まさかお前までニートってわけじゃねえんだろ?」
「自分がニートだってようやく認めたんですかどうしたんです、今日はやけに素直ですね。ラブホ行きません?」
「その辺の女攫って勝手にやってろ」
そっけなく返すとユダは珍しくむっとした表情を作る。
男でも整った容姿の人間がするとそれなりに目を引くものらしい。
少し言い過ぎたかとどきりとしたがそのあとに返ってきた答えにそうでもなかったなと期待を裏切らない男に呆れてしまう。
「いやですよ。天使様以外に欲情できなくなったので」
「うわあ、うわあ…」
「どうでもいいですけど神父様は?神父様に用事があるんですけど」
「じじい?さっき若い女がきて部屋にこもりっきりだぞ.アレは食ってるな」
「…修道女じゃないんですか?」
「しゅ…?」
聞き慣れない言葉にきょとんとしながら首を傾げるルシフェル。
それを見たユダがすぐになんとも言いがたい表情を形成していてルシフェルが更に首をひねった。
「せめて修道女って全部繰り返して下さいよかわいいじゃないですか、なんですか、『しゅ』って」
「うるせえ」
バカにされている気がしてす、と拗ねたように顔を逸らすとユダが丁寧にかつ簡単に説明してくれる。
こういうところは良いやつなのだがやはり根はクズだった。
「つまり出家しに来たって事でしょう。あ〜勿体ない。娼婦館にでも行けば儲かるのに」
「それイイ女だったらの話だろ」
「えっブスなんですか?」
「いや、可愛かったけども」
「なんだ。じゃあ今から連れて行こうかな〜紹介料貰えるし」
口笛混じりに機嫌良く言うユダの肩を掴んでルシフェルはその行く手を阻む。
元天使としては一応良心的なものも時々見せておかなければこの人間はいつまでもつけあがって、堕とされたとは言え、天使である自分を足元に見ているままだろう。
「いやいや、今神父と話してんだろ?そのしゅうなんとかで?」
「今日来たばかりならそそのかせばなんとかなります。ここの神父様馬鹿だから騙すの簡単だし」
「あ〜クズ」
「そろそろそれ、褒め言葉になってきてますよね?」
「褒めてんだよ」
「…そうですか」
「照れたのか」
「別に」
「照れたんだろ」
「うるせーなしつこい殺すぞ」
「照れたんだな…お前とんだツンデレだな」
「こういうのはヤンデレって言うらしいですよ」
「え?やん?」
「喘いだんですか?」
「お前と喋るの時々面倒くさくなるな…」
「僕もです」
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